研究課題/領域番号 |
21H02660
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
征矢 晋吾 筑波大学, 医学医療系, 助教 (90791442)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Npbwr1 / 個体間距離 / 扁桃体 |
研究実績の概要 |
昨年度、シナプス前終末に局在するシナプトフィジンを発現するAAVを用いて、CeAのNpbwr1ニューロンの投射先を探索した結果、腕傍核 (PBN)や微小細胞被蓋核(MiTg)、孤束核(NTS)においてシナプトフィジンの発現が顕著に観察された。特に顕著な発現が見られたMiTgに着目し、CeAからMiTgに投射するNpbwr1ニューロンの生理的意義を明らかにするために光遺伝学的な操作を試みた。AAVを用いてNpbwr1ニューロンにChR2を発現させ、3コンパートメント社会行動試験において、10Hzのパルス状レーザーを用いてMiTgに投射するCeAのNpbwr1ニューロンを人為的に興奮させた。その結果、コントロール(EYFP投与群)に比べChR2投与群の社会行動時間が著しく増加した。また、光依存的に神経を抑制するNpHR3.0を用いて同様の実験を行った結果、社会行動時間が著しく減少した。さらに、社会行動中におけるNpbwr1ニューロンの活動動態を明らかにするため、Npbwr1ニューロンにjGCaMP7cを発現させ、ファイバーフォトメトリーを用いて自由行動下におけるNpbwr1ニューロンのカルシウムイメージングを行った。Npbwr1ニューロンのカルシウム濃度は新規のマウス(雄、雌)に接触する(ソーシャルディスタンスがゼロになる)ことで上昇し、既知のマウスやToyマウスに対しては変化が観察されなかった。また、ヒトNpbwr1におけるSNPの役割を明らかにするため、Npbwr1-iCre(Homozygous)のCeAにAAVを用いて2種類のヒトNPBWR1遺伝子[NPBWR1(通常)]または[NPBWR1(機能低下型、SNP:Y135F)]を回復させた結果、Npbwr1群に比べてY135F群では、社会行動時間の増加およびソーシャルディスタンスの減少が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初計画していた実験2,3,4を遂行し、仮説を支持する結果が得られている。光遺伝学を用いて、順行性トレーシングにより同定した微小細胞被蓋核に投射する軸索末端を光照射により操作した結果、新規個体に対する社会行動時間が増減することが明らかになった。また、Npbwr1ニューロンのカルシウムイメージングを行った結果から、Npbwr1ニューロンは新規の個体と接触することによって活動が高まることが明らかになった。さらにNPBWR1(機能低下型、SNP:Y135F)をNpbwr1-iCre(Homozygous)のCeAに発現させることによって、NPBWR1(通常)を発現させた群と比べて社会行動時間の増加およびソーシャルディスタンスの減少が観察された。これらのことから、NPB/WはCeAに発現するNpbwr1ニューロンを抑制しており、社会的接触時にはこの抑制が外れる(脱抑制)によってNpbwr1ニューロンを興奮させ、下流の微小細胞被蓋核を抑制することによって社会行動時間を調節することが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、Npbwr1のSNPがNpbwr1ニューロンの活動動態に与える影響をカルシウムイメージングにより明らかにし、これまでの研究結果を元に論文の執筆を行う。 また、Npbwr1ニューロンの操作によって、社会行動だけでなく情動応答が変化する可能性を検証する。具体的には、腹部にDSIテレメトリープローブを留置し、光遺伝学を用いてNpbwr1ニューロンを操作した際の心拍数変化を計測する。今年度は、ファイバーフォトメトリーによるNpbwr1ニューロンのカルシウムイメージングに成功しているが、技術的な問題によりminiscopeを用いたシングルセルレベルのカルシウムイメージングを行うことができなかった。次年度は技術的な問題点を解消し、社会的接触時に個々のNpbwr1ニューロンがどのような活動動態を示すのか検証する。
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