哺乳類の概日時計は発生期に形成される細胞自律的プログラムであり、発達期から老年期まで一生にわたって概日リズム制御を通じて恒常性維持を担っている。概日リズムは、地球の自転に生体を同期させることで昼夜の周期的環境変化に細胞機能から個体機能までを適応させる機構であり、その周波数特性は分子レベルで個々の細胞に備わっている。概日時計の周期から逸脱した環境変化、例えばシフトワークなどの不規則な生活は、多岐にわたる生理機能の恒常性破綻を引き起こし、健康に大きな影響を及ぼすことが明らかとなってきた。しかし、概日時計が関与する健康問題には病態が未解明のまま残されている。特に発生発達期のリズム撹乱の影響などは社会的にも注目されているがブラックボックスのままほとんど研究が進んでいない。本研究では、哺乳類発生過程における体内時計の形成に伴う概日時間秩序の生成機構に着目し、日常生活の中で生じる健康問題まで貫く体内時計による動的恒常性制御の成立機序の解明を目指している。今年度は、これまで我々が解明してきたマウスES細胞の分化誘導系および胚オルガノイドであるGastruloid系の確立により個体発生プロセスにおける体内時計による分節時計リズム発現に対する干渉作用について明らかにしたことに加え、概日リズム制御系の環境適応機構の成立機構については、概日時計の形成に対する母子同調の意義、胎盤機能や物理的要因が胎児の概日時計形成や機能リズム形成に及ぼす役割に着目し、母子同調に重要な役割を果たすと考えられる遺伝子の欠損マウス作成に成功するなどの成果を挙げた。
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