研究課題
感染症などの疾患では、高齢者の一部は、肺胞血管のバリア機能の破綻により、急性呼吸窮迫症候群を呈し重症化する。本年度は、この原因を探るため、若年~高齢マウス肺から血管内皮細胞を単離し、シングルセルRNAsシークエンス解析を実施した。その結果、若年マウスに比べ、高齢マウスの肺胞血管内皮細胞では、低分子量Gタンパク質Rap1を基軸とした血管バリア機能亢進シグナルをコードする遺伝子の多くが一様に発現低下していることが示された。昨年度、血管内皮細胞のRap1シグナルを低下させたマウスでは、リポポリサッカライド投与による肺血管透過性亢進が劇的に亢進していることを発見し、Rap1シグナルが炎症による血管透過性亢進に対して保護的に働いていることを示した。以上の結果から、高齢者は、肺胞血管のバリア機能遺伝子の多くが発現低下しているため、感染症などのストレスに耐えきれず、血管バリアが破綻し重症化することが示唆された。本研究では、期間全体を通して、Rap1を基軸としたシグナル伝達系がVE-cadherinを介した細胞間接着を増強し血管透過性を制限していることを明らかにするとともに、本機構が肺胞毛細血管のバリア機能維持に必須であることを示した。また、血管透過性制御におけるRap1の上流シグナルとして、血流に起因するシェアストレスを同定した。具体的には、シェアストレスが三量体G蛋白質Gsを介してセカンドメッセンジャーのサイクリックAMP(cAMP)を産生すること、また、cAMPはEpac1を介して、Rap1を活性化し、VE-cadherin接着を増強することを明らかにした。また、上記Rap1を基軸とした血管透過性制御シグナル伝達系が炎症による血管透過性亢進に対して保護的に働いており、高齢者では同シグナル系が減弱することで、肺胞血管のバリア機能が破綻し重症化することが示唆された。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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