研究実績の概要 |
TRPチャネルは高いCa2+透過性を有しているが、その生理的意義は十分には明らかでない。興奮性細胞では陽イオンの流入による脱分極が電位作動性Na+チャネルを活性化して活動電位が起こるが、非興奮性細胞ではCa2+流入による様々なCa2+依存性の細胞応答が起こるとされている。これまで、TRPV4チャネルとCa2+活性化Cl-チャネルanoctamin1 (ANO1)が形質膜で複合体を形成し、機能連関によって水流出をもたらすこと、さらにTRPV1, TRPA1/ANO1複合体が感覚神経で脱分極の促進から痛み増強をもたらすことを報告してきた。2021~2022年度は、TRPM2がANO1に加えてCa2+活性化K+チャネルのIKCa1とも機能連関している可能性を検証した。HEK293細胞にTRPM2とIKCa1を共発現させると、TRPM2刺激で先ずTRPM2によると思われる陽イオンの内向き電流が観察され、遅れて逆電位が大きくシフトした。IKCa1によると思われるK+電流の活性化と考えられた。この電流はTRAM-34で抑制されたことから、IKCa1の活性化を確認した。また、このTRPM2-IKCa1の活性化によって細胞容積が減少した。TRPM2活性化によって、ANO1, IKCa1が活性化してCl-, K+が流出し、それが駆動力となって水チャネルから水が細胞外に流出したものと考えられた。マウス脳から単離したミクログリアでもTRPM2の活性化によってK+電流が活性化して、TRAM-34で抑制された。また、マウス脳ミクログリアでも、TRPM2の活性化によって細胞容積が減少し、HEK293細胞で観察されたのと同じ現象が起こっているものと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TRPV3とANO1の機能連関を明らかにすることができた(2023年論文発表)。これまでに、TRPV1, TRPV3, TRPV4, TRPA1というCa2+透過性の高いTRPチャネルとANO1の機能連関を証明してきた。これは、研究室の研究対象である温度感受性TRPチャネルがもつ高いCa2+透過性の生理的意義をある程度説明できるものと考えられる。感覚神経においてはCl-流出による脱分極の増強から痛みや痒みの増強、腺分泌細胞ではCl-流出をdriving forceとした水分泌(脳脊髄液、唾液、涙)の増大、表皮ケラチノサイトでは増殖・移動の促進による早い創傷治癒に関わっていることが明らかとなった。他にもCa2+透過性の高いTRPチャネルは多く、すでに明らかにしたTRPV1, TRPV3, TRPV4, TRPA1でも他の生理機能に関わっている可能性がある。また、ANO1と行動を共にするK+チャネルはIKCa1以外にもあるかもしれない。
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