研究実績の概要 |
TRPチャネルは高いCa2+透過性を有しているが、その生理的意義は十分には明らかでない。興奮性細胞では陽イオンの流入による脱分極が電位作動性Na+チャネルを活性化して活動電位が起こるが、非興奮性細胞ではCa2+流入による様々なCa2+依存性の細胞応答が起こるとされている。これまで、TRPV4チャネルとCa2+活性化Cl-チャネルanoctamin1 (ANO1)が形質膜で複合体を形成し、機能連関によって水流出をもたらすこと、さらにTRPV1, TRPA1/ANO1複合体が感覚神経で脱分極の促進から痛み増強をもたらすことを報告してきた。これまでTRPV3とANO1の機能連関を介してANO1活性化によるCl-流入がヒトケラチノサイトでMAPKの活性制御を介して細胞周期を調整してヒトケラチノサイトの増殖を起こしていることを明らかにしたが、Cl-とともに陽イオンも移動しなければならない。マウス脳ミクログリアでTRPM2を介して流入したCa2+がCa2+活性化K+チャネル(IKCA1)を活性化して細胞容積を調節していることを明らかにした。このIKCA1の活性化はサイトカイン放出にも関与することが分かった。TRPV4,ANO1の機能連関の研究を進展させ、マウス足底皮下の汗腺分泌腺細胞でTRPV4, ANO1,AQP-5(水チャネル)が複合体を形成して温度依存的な汗の放出に関わっていることを明らかにした。このTRPV4/ANO1/AQP5複合体による発汗がどのような生理学的意義を有するかを検討した。TRPV4マウスの足底では、TRPV4orANO1依存性発汗が存在し、TRPV4欠損マウスはツルツルの坂を登ることができなかった。TRPV4欠損による足底発汗低下で摩擦力が低下して坂を登れないものと考えられた。さらに、ヒトの指定難病163の特発性後天性全身性無汗症患者の皮膚でTRPV4の発現が著しく減弱しており、ヒトの発汗においてもTRPV4/ANO1/AQP-5複合体が関わっていることが示唆された。
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