研究課題
生活習慣病や慢性臓器障害の新規治療戦略のためには、生体内恒常性制御のメカニズムの包括的な解析を進め、病態の本質を解明することが不可欠である。病気のメカニズムに注目すると、慢性臓器障害は生体内恒常性維持のための調節システムの異常と、その修復過程の破綻状態と考えられる。アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ全身で広く産生される生理活性ペプチドであり、元々は血管拡張因子として同定されたが、その後の研究から多彩な生理作用が明らかとなってきた。申請者は、種々の遺伝子改変マウスを用いた解析などから、AMが単なる循環系調節因子ではなく、エネルギー代謝や小胞体ストレス制御などを介し、各臓器や細胞の恒常性そのものに必須の因子であることを実証してきた。AMはその応用が期待され、いくつかの臨床治験も行われているが、AMの様な生理活性ペプチドは血中半減期が短く、慢性疾患への応用は容易ではない。このため申請者は、受容体側に着目した。AMの受容体であるCLRには、一回膜貫通型タンパク、RAMPが1対1で結合する。RAMPには複数のサブアイソフォームが存在するが、我々は、AMがインプットとしてもたらした情報を、各RAMPサブアイソフォームが受容体活性調節因子として、巧妙に情報処理、翻訳を行うことで、アウトプットとしての生理機能の多様性を生み出していると考えた。本研究では、我々のこれまでの研究基盤に基づき、RAMPシステムによる生体内恒常性維持機構と、その障害により生体内外からのストレスへの応答不全・破綻から引き起こされる病態のメカニズムを解明する。RAMPシステムの制御法を開発し、生活習慣病と慢性臓器不全に対する創薬に展開する。
2: おおむね順調に進展している
我々はこれまで、AM-RAMP系の心血管系恒常性維持作用を明らかとしてきた。一方、AMとRAMPは共に、代謝系臓器においても高発現が認められる。本年度の研究では、RAMP2およびRAMP3の代謝制御における役割を検討した。RAMP2ヘテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)オスは、10週間の高脂肪食負荷によって、野生型マウスと比較して、内臓脂肪型肥満による体重増加が認められ、脂肪肝の増悪、インスリン抵抗性亢進などを認めた。一方、脂肪細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(A-RAMP2-/-)オスは、通常食下でも4週齢の若年期から体重増加を認め、内臓脂肪型肥満を呈した。呼気ガス分析では、終日、酸素およびエネルギー消費量低下、呼吸商上昇を認め、脂肪が消費されにくく、肥満が誘発されていると考えられた。内臓脂肪では、脂肪細胞の肥大、炎症細胞浸潤の亢進、著明な線維化を認め、炎症性サイトカイン、ケモカインの著明な発現亢進と、脂肪酸β酸化系酵素の発現低下を認め、脂質代謝障害による脂肪細胞肥大と共に、脂肪組織における慢性炎症が惹起されていると考えられた。これに対し、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)オスに対して高脂肪食負荷を行ったところ、野生型マウスと比較して、体重に大きな変化は認められなかった。そこでRAMP3-/-メスに対して卵巣摘出と高脂肪食負荷を行なったところ、内臓脂肪型肥満による体重増加が認められ、脂肪肝の増悪、インスリン抵抗性亢進を認めた。RAMP3はエストロゲンの膜型受容体であるGPR30に結合したことから、エストロゲンとAM-RAMP系のクロストークが予想された。以上の結果から、RAMP2、RAMP3共に、代謝制御において重要な役割を有することが明らかとなった。一方で、両者の病態生理学的意義には性差が存在する可能性が示唆された。
臓器機能維持におけるミトコンドリアの重要性はよく知られているが、病気との関係、特に慢性心不全を含む心疾患における病態生理学的意義には未だ不明の点も多い。心不全状態では、心筋ミトコンドリア機能低下に伴う脂肪酸β酸化の低下が認められ、心筋のエネルギー不足が、心不全の病態悪化に関与している。我々は、アドレノメデュリン(AM)と、その受容体活性調節タンパク(RAMP2)が、心臓においてはミトコンドリア機能を直接制御している可能性を見出した。誘導型心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-C-RAMP2-/-)では、拡張型心筋症様の心不全が自然発症し、心筋ミトコンドリアに特徴的な異常所見を認めた。我々はAM-RAMP2システムがその下流シグナルとしてCRFB-PGC1αpathwayを活性化し、心臓ミトコンドリアの機能維持と心機能維持に重要な役割を果たすことを見出した。一方で、心臓においてはRAMP2のアイソフォームであるRAMP3も豊富に発現しているが、AM-RAMP2システムと、AM-RAMP3システムの機能分化や協調作用などについては全く不明である。本研究では、AM-RAMP2、AM-RAMP3システム各々の、心臓保護作用やミトコンドリア機能制御における意義を検証し、両者の機能分化や相互作用を明らかとし、これらの成果を新たな心不全治療薬の開発に展開する。
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