研究課題/領域番号 |
21H02669
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
新藤 隆行 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (90345215)
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研究分担者 |
横山 茂之 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 特別招聘研究員 (00159229)
神吉 昭子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (10397309)
村田 敏規 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (50253406)
桜井 敬之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (80317825)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 恒常性 / 生活習慣病 / 慢性臓器障害 / RAMP |
研究実績の概要 |
生活習慣病や慢性臓器障害の新規治療戦略のためには、生体内恒常性制御のメカニズムの包括的な解析を進め、病態の本質を解明することが不可欠である。病気のメカニズムに注目すると、慢性臓器障害は生体内恒常性維持のための調節システムの異常と、その修復過程の破綻状態と考えられる。アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ全身で広く産生される生理活性ペプチドであり、元々は血管拡張因子として同定されたが、その後の研究から多彩な生理作用が明らかとなってきた。申請者は、種々の遺伝子改変マウスを用いた解析などから、AMが単なる循環系調節因子ではなく、エネルギー代謝や小胞体ストレス制御などを介し、各臓器や細胞の恒常性そのものに必須の因子であることを実証してきた。AMはその応用が期待され、いくつかの臨床治験も行われているが、AMの様な生理活性ペプチドは血中半減期が短く、慢性疾患への応用は容易ではない。このため申請者は、受容体側に着目した。 AMの受容体であるCLRには、一回膜貫通型タンパク、RAMPが1対1で結合する。RAMPには複数のサブアイソフォームが存在するが、我々は、AMがインプットとしてもたらした情報を、各RAMPサブアイソフォームが受容体活性調節因子として、巧妙に情報処理、翻訳を行うことで、アウトプットとしての生理機能の多様性を生み出していると考えた。本研究では、我々のこれまでの研究基盤に基づき、RAMPシステムによる生体内恒常性維持機構と、その障害により生体内外からのストレスへの応答不全・破綻から引き起こされる病態のメカニズムを解明する。RAMPシステムの制御法を開発し、生活習慣病と慢性臓器不全に対する創薬に展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アドレノメデュリン(AM)は多彩な作用を有する生理活性ペプチドであり、その活性はAMの受容体CLRに結合する受容体活性調節タンパクRAMP2、RAMP3によって制御されている。本年度の研究では心筋細胞特異的RAMP2およびRAMP3ノックアウトマウス(-/-)を用いて、横行大動脈縮窄術(TAC)を施行し、心血管系ストレス応答における両者の意義を検討した。 心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(C-RAMP2-/-)では、TAC7日目の早期から、心機能低下、心肥大、線維化が亢進した。C-RAMP2 -/-の心臓では、アポトーシスの増加とミトコンドリアの形態異常を認め、カルシウムトランジェントの低下が確認された。C-RAMP2-/-心筋細胞では、イソプロテレノール負荷後、ミトコンドリア数の減少、ミトコンドリア膜電位低下が見られた。またC-RAMP2-/-ではミトコンドリア呼吸能の低下が確認された。C-RAMP2-/-ではCREBの活性低下とPGC-1αの発現低下を認め、これらがミトコンドリア機能異常につながったと考えられた。 一方、RAMP3-/-では、TAC後28日目の後期になってはじめて、心機能の低下が認められた。RAMP3-/-では、ミトコンドリアの異常は確認できなかったが、LYVE-1免疫染色陽性のリンパ管数の減少とコネキシン43の発現低下を認めた。 以上の結果から、AM-RAMP2系は心筋細胞のミトコンドリア機能維持に必須であり、ストレス応答の早期から必要であるのに対し、AM-RAMP3系はリンパ管の恒常性制御により、より後期の段階でのストレス応答に必要であるという機能分化が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
各々のRAMPサブタイプに特異的に結合しうる低分子化合物はこれまでに存在しない。本研究では、RAMP各サブアイソフォームを生活習慣病や慢性臓器障害の新しい治療標的と想定し、RAMP各サブアイソフォームの活性を特異的に調整することができる化合物の探索を行う。このため、化合物ライブラリーの中から、RAMP2に結合する低分子化合物のスクリーニングを行う。さらにRAMP2タンパクの細胞外ドメインの構造解析データを用いたドッキング計算を行い、候補化合物を化合物ライブラリーの中から選択する。CLRとRAMP2の安定過剰発現細胞株を作成し、時間分解蛍光TR-FRET法によって細胞内cAMPレベルを定量化するアッセイ系を構築し、候補化合物の活性を評価し、さらに候補化合物を絞り込む。有用性が高いと考えられる候補化合物については、RAMP2/CLR複合体の細胞外領域との共結晶構造解析を試みる。
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