研究課題
本研究計画の目標は、神経伝達物質としてのL-ドーパ (DOPA) の役割を明らかにすることを目的として、1)DOPAが、細胞内のどこから、どのように細胞外へ遊離されるのか?2)DOPAが、その受容体GPR143を介して、具体的にどの神経回路において、どのように神経伝達に関与するか?を明らかにすることである。本計画1年目の成果として、主に以下の知見が得られた。A) DOPAがGPR143を介して、肺高血圧症モデルの病態形成に関わること(Nakano et al, 2022)、海馬歯状回における神経新生を促進すること、この作用が消失すると、うつ症状が発現することを明らかにした(Kasahara et al, 2022) 。B) PC12培養細胞株においてDOPAが、ドパミンと同様、高カリウム(45 mM)刺激により、細胞外Ca2+依存性に遊離されること、この誘発性DOPA遊離が、v-ATPase阻害剤バフィロマイシンで阻害されず、シナプス小胞の小胞体からゴルジ装置への輸送過程を阻害するブレフェルディンで抑制されることを明らかにし、DOPAはドパミンとは異なる機序により遊離されることを示した(五嶋ら、2022)。C) GPR143は、ドパミンD2受容体(D2R)との相互作用を介して、特定の神経回路において、ドパミン作動性神経伝達を修飾する機能を担うことを明らかにした(増川、田近、荒井ら、2022)。
2: おおむね順調に進展している
申請時計画調書に記述した1)小胞性DOPA取り込み輸送の解析、2) DOPA神経回路の特定、3) DOPAのGPR143を介するDA作動性神経伝達の修飾作用、4)GPR143を介さないDOPA応答の解析、のうち、1)~3)については、ほぼ順調に研究が進捗している。また、4)についても、予定していた化合物スクリーニングをほぼ終了し、ファルマコフォア解析を行い、近く論文を投稿する予定となっている。
2年目においては、1)DOPAの神経回路レベルのドパミン神経伝達制御の役割を明らかにすること、2)脱分極刺激によるDOPA遊離を解析し、siRNA処理により、DOPA遊離を抑制するトランスポーター分子を絞り込むこと、3)GPR143以外のDOPA受容体に対するリガンドからファルマコフォアを明らかにし、新規受容体同定へ向けての緒を得ることである。研究計画の詳細は、以下の通りである。1)神経回路における役割:HEK293細胞株において、GPR143およびD1あるいはD2受容体を共発現させ、これらの受容体間の相互作用様式を明らかにする。また、GPR143とドパミン受容体との会合が、DOPA依存性に起こるかどうか、GPR143、ドパミン受容体のどのドメインで相互作用が起こるのかを解析する。またD1, D2受容体の下流シグナルの指標として細胞内cAMPを測定し、DOPAがGPR143を介してどのようにドパミン受容体シグナル伝達を修飾するかを明らかにするとともに、光遺伝学的手法に基づく神経回路の選択的刺激によって、DOPAがどのニューロンから遊離するのか、どのような際に、遊離されるのかを明らかにする。2)DOPA遊離解析:すでに本年度で、PC12細胞におけるDOPA遊離測定系を確立した。この系を用い、いつくかの小胞性トランスポーター分子に対する選択的siRNAノックダウンを行い、DOPAおよびDA遊離に及ぼす効果の有無を解析する。3)GPR143以外のDOPA受容体のファルマコフォアモデル:GPR143ノックアウトマウス、およびラットを用いて、複数のDOPA構造類自体のスクリーニングを行い、GPR143以外のDOPA受容体に対するファルマコフォアモデルを確立する。これを踏まえ、今年度内に、これらのファルマコフォアと一致するDOPA応答評価系の確立を試みる。
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J Pharmacol Sci.
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10.1016/j.jphs.2021.11.008.
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http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~pharmac/