細胞内シグナル脂質であるイノシトールリン脂質(PIPs)は、グリセロール骨格に2つのアシル基とイノシトール環が結合した構造を有する。イノシトール環のリン酸化状態により7種類に分類されるPIPsは個々に特有の機能を有することが明らかになってきているが、アシル基組成の違いによるPIPs分子種特有の機能は知られていない。 我々は、特定のアシル基組成を有するPIPs分子種の蓄積とがんとの相関を示唆する予備的知見を得ている。そこで本研究では新たな手法の開発を通して、特定のPIPs分子種とがんの発生・悪性化との関連を解明する。 本年度はまず、アシル基組成の異なるPIPs分子種機能解析のための新たな方法の開発を行った。既存の脂質リポソームを用いた沈降法ではPIPs分子種によりリポソームの沈降状況に違いが生じ、再現性のある実験結果を得ることができなかった。この点を克服するために、シリカビーズを支持体とする方法の開発に取り組んだ。種々のPIPs分子種を用いて作製した脂質ベシクルは、濃度依存的にシリカビーズに結合することを見出した。次に種々のPIPs結合ドメインのリコンビナントタンパク質(PIPs―BP)とPIPs結合ビーズとを混合したところ、PIPs―BPの結合が認められたことから、シリカビーズ上のPIPsはタンパク質に認識され得ることが示された。しかもPIPs―BPのPIPsに対する結合プロファイルは、別の方法で解析されたこれまでの報告と一致するものであった。今後はがん細胞やがん組織由来のライゼートを用いた解析を進める。
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