研究課題
我々は、ユビキチンのN末端Met1を介する「直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖)」を生成するLUBACユビキチンリガーゼ(E3)を見出し、LUBACは炎症応答や免疫制御に中枢的な役割を果たすNF-κB経路を活性化し、アポトーシスやネクロプトーシスなど細胞死を抑制することを突き止めた。最近、ユビキチン鎖は均一の連結型のみではなく、分岐鎖や混合鎖など複雑な形態を呈することが明らかになり、実際に直鎖とLys63(M1/K63)の混合鎖がNF-κB活性化に寄与することが明らかになった。これは、LUBACが他のE3と協調して複雑なユビキチン鎖を生成することを示唆している。既に我々は、LUBAC結合性新規E3としてK48鎖を生成するRNF126とK63鎖を生成するDZIP3を見出し、LUBAC制御に関わる新規脱ユビキチン化酵素(DUB)としてK63鎖を分解するOTUD1を同定した。本研究では、LUBACとこれら酵素間のクロストークが炎症・免疫制御にどのように関わるか、分子細胞生物学解析やマウス個体レベルで解明を目指している。本年度の研究からRNF126が炎症性サイトカインTNF-αによって誘導される細胞死制御に重要な役割を果たしており、RNF126が先行して付加するユビキチン鎖がシードとなって、これにM1鎖など複雑なユビキチン鎖を付加することが重要である可能性を見出した。また、OTUD1は酸化ストレス制御に重要なKEAP1に結合性し、Nrf2を介した酸化ストレスと過剰なROSによって誘導される細胞死(oxeiptosis)にも関わることを突き止めた。今後、これらのE3やDUBのさらに詳細な細胞機構解明とKOマウスを用いたin vivo解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
我々は、ユビキチンのN末端Met1を介する直鎖状ユビキチン鎖を生成するLUBACユビキチンリガーゼ(E3)を見出し、LUBACは炎症応答や免疫制御に中枢的な役割を果たすNF-κB経路を活性化し、細胞死を抑制することを見出している。本年度の研究で我々は、LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成がNDP52を介した侵入細菌に対するオートファジー(ゼノファジー)制御に関わることを明らかにし(Front. Immunol., 2021)、英文総説にまとめた(Biochem. Soc. Transac., 2022)。また、ユビキチン修飾とがん進展にMCL1のアセチル化が関わることを示した(Cell Rep., 2021)。さらに、アレルギー性鼻炎におけるT細胞由来ヒスタミンの重要性(PLoS One 2021; Inflam. Res. 2021)、自己免疫性皮膚炎におけるインターフェロンの寄与(Sci. Rep. 2021; J Am Acad Dermatol. 2021)、肝炎との関連(Hepatology 2021; Redox Biol. 2022)を明らかにした。このように、本年度の研究では、共同研究を含めて自然・獲得免疫、炎症・アレルギー応答の細胞・生理機構解明を推進した。
2021年度の研究をさらに発展させ、次の2項目について研究を推進する。1.新規E3-LUBAC相互作用を介したユビキチン鎖の複雑化と生理機能制御既にLUBACと相互作用することを見出している2種のE3酵素について、ノックアウト細胞を用いた炎症・自然免疫関連シグナル応答経路を精査する。また、LUBACと協調した複雑なユビキチン鎖生成の解明やTNF-αによって惹起されるアポトーシス・ネクロプトーシスなど細胞死に与える影響を解析する。さらに、これらE3のノックアウトマウスの全身炎症、敗血症、腸炎モデル解析を継続して進め、ヒト疾患との関連について解明する。2. OTUD1の炎症シグナル制御と細胞機能制御2021年度の質量分析研究から、我々が同定したLUBACやNF-κB活性を制御する新規脱ユビキチン化酵素(OTUD1)は、酸化ストレス応答に重要なKEAP1に結合するという新たな知見を見出した。これはOTUD1がNF-κBとNrf2/KEAP1という炎症応答に重要な2つのシグナル経路をクロストーク制御することを示唆している。そこで本年度の研究では、OTUD1-KO細胞を用いて、酸化ストレス応答や酸化ダメージによる細胞死制御など新展開に挑戦する。また、上記E3と同様に、Otud1-KOマウスを用いて病態モデル解析を進め、NF-κBとNrf2/KEAP1経路の関与を明らかにする。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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