研究課題/領域番号 |
21H02692
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武川 睦寛 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30322332)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / がん / オミクス解析 |
研究実績の概要 |
MAPキナーゼ経路(ERK、p38、JNK経路)は細胞増殖・分化、細胞死、炎症・免疫応答などを司るシグナル伝達システムであり、その制御破綻が慢性炎症性疾患や発癌にも深く関与する。本研究では、MAPキナーゼ経路による生命機能制御機構の全容を解明するとともに、その破綻がもたらす疾患発症メカニズムを分子レベル、個体レベルで解明することを目標に研究を推進している。 今年度は、まず各MAPK経路の活性化に伴って細胞内で特異的かつ有意に発現量が変動する遺伝子を網羅的に探索するため、次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を実施し、これまでに報告のない複数の新規遺伝子を同定することに成功した。また、これらの遺伝子の発現制御機構の解析も推進し、幾つかの遺伝子に関しては、その転写に寄与する転写因子および転写抑制因子を同定することに成功した。また、これらの分子の生理機能の解析も実施した結果、各分子が細胞増殖・細胞周期制御、DNA損傷応答、アポトーシス制御、mRNA安定性調節などに寄与することを示す知見が得られ、一部の分子に関しては、インタラクトーム解析から特異的結合分子を同定し、その詳細な作用機構も明らかにした。現在、ゲノム編集技術を用いて、これらの分子に対する遺伝子改変マウスの作成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにMAPK経路の活性化依存的に発現量が変化する遺伝子の網羅的探索を完遂し、未知の遺伝子を複数同定することに成功している。また幾つかの新規分子に関して機能解析を進め、細胞増殖や免疫応答、DNA損傷応答等の制御に果たす役割の一端を明らかにした。さらに、これらの分子と癌病態との関連について新たな知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
・MAPK経路によ遺伝子発現誘導機構の解明:今回同定した新規遺伝子が、MAPK活性依存的に発現誘導される機構をさらに解明するため、これらの遺伝子のプロモーター領域の解析を進めるとともに、ChIPアッセイ等も実施して、これら遺伝子の発現制御を担う転写因子・転写抑制因子を同定し、その制御を明らかにする。 ・細胞増殖、炎症・免疫応答、癌病態に与える影響の解明:同定した遺伝子が、癌細胞の増殖能や腫瘍形成能にどの様な影響を与えるか、in vitroでの実験およびマウスを用いたin vivoでの解析を実施して明らかにする。さらに、個体レベルでの転移実験なども推進し、癌の病態形成に果たす役割について包括的に解明する。 ・生理機能の解明:同定した分子の生理機能を詳細に解明するため、これらの分子と特異的に結合し、相互作用する蛋白質を網羅的に同定する。我々はこれまでにインタラクトーム解析を実施し、これらの分子と特異的に結合する特定の蛋白質を複数同定することに成功している。今後さらに、その詳細な作用機作を解明する。 ・遺伝子改変マウスを用いた病態解析:これらの分子の遺伝子欠損や制御破綻が、組織の炎症ならびに発癌や癌の病態形成に寄与するか、遺伝子改変マウスを樹立して個体レベルで検証する。
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