研究課題/領域番号 |
21H02696
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
稲垣 昌樹 三重大学, 医学系研究科, 客員教授 (30183007)
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研究分担者 |
山川 大史 三重大学, 医学系研究科, 助教 (20631097)
西村 有平 三重大学, 医学系研究科, 教授 (30303720)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 一次線毛 / 脂質ラフト / カベオラ / 細胞増殖 / 細胞分化 / 脂肪前駆細胞 |
研究実績の概要 |
細胞表面から伸びるアンテナ様の構造をした細胞小器官である一次線毛は、細胞外からの情報を感知し、細胞内にシグナル伝達する重要な役割を持つ。研究代表者らは、一次線毛の新しい機能として、細胞増殖停止および細胞分化の機能について明らかにしてきた。最近、細胞膜の特殊なコレステロールリッチな領域である脂質ラフト・カベオラが、一次線毛の根元に移動するという細胞膜動態制御機構を発見し、これが脂肪細胞分化に必須の細胞内シグナルであるAktの活性に欠かせない現象であることを見い出した。そこで本制御機構の詳細を明らかにするため、本年度は次に示す(1)、(2)の研究に取り組み、成果を上げている。 (1)脂肪前駆細胞の一次線毛が伸長し、抗肥満作用を示すトリコプレイン欠損マウスの異所性脂肪蓄積効果について、脂肪肝、近年研究が進んできた骨格筋障害後の異所性脂肪蓄積について、脂肪あるいは脂肪細胞の蓄積を減弱化する効果を新たに見出した。加えて、四塩化炭素誘導性の肝線維化モデルを実施し、肝線維化への貢献性についても検討した。こちらに関しては、線維化には影響は及ばなかったが、肝細胞の細胞死を抑制する新たな効果を発見した。 (2)トリコプレイン欠損による一次線毛伸長は、脂肪細胞分化誘導刺激下で一次線毛への脂質ラフト・カベオラの移動が阻害される。このメカニズムについて、トリコプレイン発現を制御するユビキチン化酵素複合体の基質であるKCTD17や脱ユビキチン化酵素USP8のsiRNAによる一次線毛変化及び脂肪細胞分可能の変化の検証を実施した。USP8の欠損は、トリコプレイン欠損と同様に一次線毛が伸長し脂肪細胞分化を抑制し、KCTD17の欠損は一次線毛の消失を誘導し、脂肪細胞分化を増強することを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、高脂肪食負荷による肥満誘導におけるトリコプレイン欠損マウスの表現型の一つである脂肪肝抑制効果に代表される異所性脂肪蓄積に関して、筋組織でも同様の抑制効果があることを発見し、また肝臓病変として肝線維化誘導系を実施できた。野生型マウスと比べて、トリコプレイン欠損マウスにおける線維芽細胞分化への影響は見られなかったものの、肝細胞の細胞死を抑制する有意義な結果を新たに得ることができた。またトリコプレイン欠損脂肪前駆細胞における脂肪細胞分化抑制現象について、トリコプレインの発現を制御する因子に着目し、一次線毛伸長あるいは消失の脂肪細胞分化への影響評価を実施し、トリコプレイン欠損の作用を確信的なものにするための重要な研究成果を得ることができている。以上のように、当初の計画の通り、研究を実施することができており、またその成果をしっかり示すことができているため、現在のところおおむね順調に進展しているという進捗状況の判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はトリコプレイン制御系の操作により、一次線毛の伸長・消失を誘導し、脂質ラフト動態へのトリコプレイン欠損の表現型との共通性を確認するとともに、その動態制御のメカニズム解明に取り組む。また、骨格筋障害モデルの実験系においては、インスリン・Aktシグナル系以外に、IL33・ST2受容体シグナル系の変化を確認できているため、脂質ラフト動態との関連を明らかにしていく実験系を立ち上げ、細胞膜上の変化が受容体シグナル系にどのように影響を及ぼしているかを明確にする。 研究代表者らはトリコプレイン欠損によって一次線毛形成を促すことで細胞増殖を停止させることを発見してきている。そこで、上記脂肪細胞分化以外にも、癌細胞においてトリコプレインの欠損が一次線毛形成を促し、脂質ラフトの動態制御をコントロールしているかを明らかにする。加えて、Aktシグナルの制御のメカニズムを明らかにするため、その局在解析やAktの上流因子の局在や活性への影響を明らかにする。これにより、癌細胞の増殖制御を誘導する新規の癌治療法の開発に貢献することを目指す。
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