研究課題
本研究では、新しいChIP-MS法を用いたHSF1転写複合体の同定と解析を基盤として、HSP70 遺伝子のクロマチン弛緩と転写の調節機構を解明する。本年度はHSF1のリン酸化によるTRRAP/TIP60複合体のリクルート、そしてその複合体によるヒストン修飾と関連するクロマチン調節機構を解明した。まず、ChIP-MS法によってHSF1と相互作用するTRRAPを同定した。HSF1の結合部位を同定するために各種HSF1変異体と共免疫沈降法を行ったところ、HSF1は熱ストレス後にTRRAPと結合するが、リン酸化部位であるHSF1-S419の変異体はそれと相互作用しなかった。内在性のHSF1をHSF1-S419変異体に置換したところ、熱ストレス後にHSP70プロモーターへのTRRAPのリクルートがなく、HSP70 mRNAの誘導は減弱した。TRRAPはヒストンアセチル化酵素TIP60あるいはGCN5を含む複合体を形成することが知られている。熱ストレス条件下でのTRRAPと相互作用する因子群を質量分析で解析したところ、TRRAP/TIP60複合体を同定した。実際に、HSF1はTRRAPを介してTIP60をHSP70プロモーターへリクルートした。次に、熱ストレスによるHSP70 遺伝子のヒストンH3のK9、K18、K23、K27、及びヒストンH4のK16アセチル化の変化を調べた。遺伝子ノックダウンや相互作用変異体への置換を行うことで、TRRAP/TIP60はH3K18acとH4K16acに必要であることが明らかとなった。また、同時にリクルートすることが知られているp300はH3K23acとH3K27acに必要であった。以上の結果は、HSF1-S419のリン酸化がTRRAP-TIP60複合体をリクルートし、ヒストンアセチル化を介してHSP70転写を促進することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
熱ショック応答の転写誘導過程におけるクロマチン調節機構を哺乳動物細胞を用いてはじめて解明した。リン酸化されたHSF1がTRRAP-TIP60複合体をリクルートすることで特定のヒストンアセチル化を促進し、活性化クロマチン状態を確立することが明らかとなった。
今後は、全ゲノム解析を行うことでHSF1とTRRAPの結合領域が一致するかを明らかにする。そして、ChIP-MS法で同定したTRIM33とTRIM24が、TRRAP-TIP60複合体によるヒストンアセチル化とどのように関連して活性化クロマチン状態の確立に関与するのかを明らかにする。さらに、これらのHSF1転写複合体形成が腫瘍形成に関連するかを示す。
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