研究課題/領域番号 |
21H02714
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
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研究分担者 |
近藤 純平 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (80624593)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 可塑性 / 細胞間コミュニケーション / リアルタイムイメージング / 構造破壊 |
研究実績の概要 |
本研究では、がんを再生臓器と捉え、がんの三次元構造破壊とその再生過程における幹細胞活性化シグナルを、時空間レベルで明らかにすることを目的とする。これまでに、Wntシグナルがストレスによる細胞塊の幹細胞化に関与していることを見出したので、本研究では、NotchおよびWntシグナルの活性化をリアルタイムかつ三次元観察し、三次元的細胞間コミュニケーションの動態を明らかにする。さらに細胞アブレーションにより、構造破壊自体の幹細胞化への関与を明らかにする。がんの三次元特性の実態を明らかにし、細胞間コミュニケーションを標的とした新しいがん治療法の開発に繋げる。 2021年度は、三次元構造破壊とその再生による幹細胞活性化シグナルを解析するために、我々の開発したがん三次元培養法を用いて、オルガノイド構成細胞のスフェロイド形成能と増殖能を同時に解析するclonogenic assay法を確立した。このassay法により、Notchシグナルの抑制ががん細胞の増殖、非増殖の運命決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。一方、Notch シグナルの特異的抑制と活性化のためにdominant negative MAML1とNICDの発現誘導型過剰発現を行った。次に、NotchやWntシグナルの転写応答を、三次元レベルで解析するために、透明化法を応用したオルガノイドのwhole mount in situ hybridization技術を確立した。また、周囲の細胞が細胞死することが、Notchシグナルを介して残存細胞にアラームとして発動し、幹細胞性を誘導するという仮説を検証するために、特異的にiCaspase9システムを構築し、オルガノイドに導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特筆すべきこととして、三次元構造の破壊とその再生による幹細胞活性化シグナルを解析するために、我々の開発したがん三次元培養法を用いて、オルガノイド構成細胞のスフェロイド形成能と増殖能を同時に解析するclonogenic assay法を確立した。このassay法により、単細胞あるいは小細胞塊の運命(急速増殖、緩慢増殖、細胞死)を追跡することが可能で、細胞分散により少数の細胞からなる細胞塊内でのみ三次元構造の破壊による幹細胞活性化が起こり、Notchシグナルの抑制が、小細胞塊内のがん細胞の運命決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。三次元構造の破壊とその再生による幹細胞活性化を、このように単純化した実験系で証明することができたので、抗がん剤などによる細胞傷害での幹細胞活性化の証明を、オルガノイドや移植腫瘍の系に発展させる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行った研究基盤を用いて解析を進める。特に、オルガノイド構成細胞のスフェロイド形成能と増殖能を同時に解析するclonogenic assay法を確立することができたので、今後、細胞運命の決定を解析するためのプラットフォームとして用いる。また、Notchシグナルを特異的に阻害あるいは活性化する系を構築したので、Wntシグナルが並行して阻害あるいは活性化されるかどうかを、下流遺伝子の転写活性で解析する。RNAscopeを用いたwhole mount in situ hybridization法などで単細胞レベルの解像度で解析する。同時に、CRSPR/CAS9法によりNotchとWntシグナルのレポーターオルガノイドを作製し、リアルタイムでの解析を行う。さらに、周囲の細胞が細胞死することが、Notchシグナルを介して残存細胞にアラームとして発動し、幹細胞性を誘導するという仮説を検証するために、構築したiCaspase9導入細胞とparent cellとを混合してオルガノイドを再構成させたのち、iCaspase9導入細胞のみに細胞死を誘導し、非導入細胞の幹細胞性の変化をオルガノイドレベル、さらにはin vivoで解析する。がんの三次元構造破壊とその再生過程における幹細胞化を阻害する薬物をスクリーニングする系を開発する。
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