研究課題
中枢神経系炎症性疾患において様々な免疫細胞が脳内に浸潤する。T細胞・B細胞による獲得免役系とミクログリア・マクロファージを中心とした自然免役系、さらに神経細胞などの脳細胞が相互作用し、脳組織の修復に関与していることが予想される。本研究ではこのような相互作用を明らかにする。脳内炎症における脳特異的リンパ球や修復性マクロファージの発生機構を明らかにし、さらに組織修復・神経再生への寄与とメカニズムを解明することを目標とする。このために具体的には脳梗塞、多発性硬化症、アルツハイマー病のマウスモデルを用いて以下の3点を明らかにする。①一細胞RNAシークエンス技術を活用し、脳炎症後の脳細胞や脳内免疫細胞の動態を網羅的に解析する。②脳内炎症後に浸潤するマクロファージやT細胞が脳環境に適応して修復性あるいは脳特異的遺伝子発現を獲得する機構を明らかにする。③新たに発見した泡沫化細胞に焦点を絞り、その発生機構や意義、脳内免疫細胞との相互作用や脳組織修復への関与とそのメカニズムを解明する。このような脳内炎症細胞と神経細胞をはじめとする脳内細胞との相互作用とそれによる修復機構の解明は、様々な神経炎症関連疾患の病態解明および治療・予防法の開発につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
アストロサイトと共培養することでin vitroで脳のTregに近いTregの誘導に成功したため。しかしながら、泡沫化細胞に関する研究はあまり進んでいない。
泡沫化細胞に焦点を絞って、脳内T細胞との相互作用とその意義や組織修復、神経再生への関与とそのメカニズムを解明する。①Iba1陽性泡沫化細胞の発生機構の解明脳梗塞後には死細胞などを多く貪食した泡沫化細胞(Iba1陽性)が認められる。また、泡沫化細胞の近傍にT細胞も局在しており、T細胞との相互作用も示唆される。よって脳泡沫化細胞の由来はミクログリア、浸潤マクロファージ、樹状細胞などが想定される。BODIPYにより細胞内脂肪滴を染色することで病変部位より脳泡沫化細胞を含む単球系細胞を単離し、scRNAseq解析を行う。これによって脳泡沫化細胞の由来および機能を推定する。さらに遺伝子改変マウスを用いて予想される機能を検証する。貪食細胞と神経細胞などの脳細胞とin vitroで共培養を行い、死細胞取り込みや泡沫化を確認する。この共培養系を利用して、CRISPRスクリーニングなどにより、泡沫化誘導因子や貪食の際に必要な受容体やシグナル分子を同定する。②泡沫化細胞の解析と神経修復への影響の解明泡沫化細胞の神経症状や炎症の収束・組織修復への影響を調べる。このために、CSF1受容体キナーゼ阻害剤などを用いて脳内マクロファージやミクログリアの除去を行う。さらに①で得られた泡沫化に必要なシグナル分子を欠損するマウスを用いて泡沫化の脳梗塞やEAE、アルツハイマー病態への意義を調べる。具体的には神経症状のほか神経細胞のスパイン形成、アストロサイトのグリオーシスの形成、血管内皮の増殖など脳細胞に対する影響を調べる。泡沫化細胞から放出されるサイトカインや生理活性物質をプロテオームおよびメタボローム解析によって予想する。泡沫化細胞と神経細胞やグリア細胞との共培養系を用いてそれらの物質の脳修復作用における意義を明らかにする。
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