研究課題/領域番号 |
21H02720
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 秀人 愛知医科大学, 付置研究所, 教授 (90240514)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | バーシカン / プロテオグリカン / 細胞外マトリックス / 腸炎 / マトリカイン |
研究実績の概要 |
細胞外マトリックスのプロテオグリカン群のうちバーシカン(Vcan)は各種病態の組織破壊・修復の際の仮設マトリックスの形成に中心的役割を果たす分子である。同分子は蛋白質分解酵素群バーシカナーゼによって特異的に分解され、その分解産物バーシカイン(V-kine)は新たな生理機能を獲得することが明らかとなりつつある。本研究の目的は炎症と腫瘍の組織破壊・修復過程におけるVcanとV-kineの機能ならびにこれらの分子を介する細胞間のクロストークの詳細を明らかにすることである。 バーシカナーゼ抵抗性Vcanを発現するノックインマウスV1R系を用いてドデシル酸ナトリウム誘導性腸炎モデルを適用し、野生型と比較することによって腸炎におけるVcanの代謝の重要性を検討したところ、V1R系ホモ接合体(R/R)では炎症が軽度であった。組織学的には炎症細胞浸潤は高度であるにもかかわらず組織破壊は軽度であり間葉系細胞の筋線維芽細胞への分化が促進されていた。病変部よりマクロファージ画分とその他の間葉系細胞を分取して共培養を行ったところ、マクロファージが産生するVcanの分解産物であるバーシカインが筋線維芽細胞への分化を抑制することがわかった。さらに線維芽細胞にバーシカインを発現させて検討し、同分子が線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を抑制することがわかった。本研究成果はMatrix Biologyに発表した。関連内容の総説をAm J Cell Biol-Cell Physiolに、関連内容の海外との共同研究をNat CardiovascResに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではバーシカナーゼ抵抗性Vcanを発現するノックインマウスV1R系を用いてVcan代謝の生理的ならびに病的状態における役割を、間葉系細胞と炎症細胞のクロストークに焦点を当てて解明することである。 ドデシル酸ナトリウム誘導性腸炎モデルを適用し、野生型と比較することによって腸炎におけるVcanの代謝の重要性を検討したところ、V1R系ホモ接合体(R/R)では炎症が軽度であった。組織学的には炎症細胞浸潤は高度であるにもかかわらず組織破壊は軽度であり間葉系細胞の筋線維芽細胞への分化が促進されていた。病変部よりマクロファージ画分とその他の間葉系細胞を分取して共培養を行ったところ、マクロファージが産生するVcanの分解産物であるバーシカインが筋線維芽細胞への分化を抑制することがわかった。さらに線維芽細胞にバーシカインを発現させて検討し、同分子が線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を抑制することがわかった。本研究成果はMatrix Biologyに発表した。関連内容の総説をAm J Cell Biol-Cell Physiolに発表した。 腫瘍移植実験に関しては様々な予備実験を実施し、Vcanの代謝が腫瘍細胞塊の形態や腫瘍細胞の分化度に影響を与えることを示す結果が得られている。当該の結果の更なる検証とVcanあるいはバーシカインの腫瘍細胞挙動への影響の作用機構を明らかにすべく、共培養実験系を導入している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は腫瘍浸潤の病態におけるバーシカンとバーシカインの役割を検討する。 マウス皮下に腫瘍細胞を移植し、一定期間後に腫瘍組織切片を作製して形態学的解析を行う。また腫瘍塊から腫瘍細胞、間質の線維芽細胞、マクロファージをそれぞれ分取し、腫瘍細胞-間質線維芽細胞、腫瘍細胞-マクロファージ、線維芽細胞-マクロファージの3つの組み合わせで細胞間クロストークの実体を解明する。 形態学的解析に関しては通常の染色に加え、免疫染色(①ECM分子に関してはVcan、Vcan neoエピトープ、デコリン、コラーゲン等、②蛋白質分解酵素としてADAMTS群とMMP群、③間質FBs系のマーカーとしてActa2、 periostin、vimentin等、④血管、リンパ管マーカーとしてCD31、CD34、LYVE1、⑤炎症細胞のマーカーとして CD11b、 F4/80、 CD11c、 Ly6G、 Ly6C、 CD3等、⑥シグナル分子関連群としてTGFβ、Smad2/3、EGF-EGFR-ERK1/2系等、⑦細胞増殖に関してKi67)を行う。 各種細胞の採取に関しては、GFPを恒常的には発現する腫瘍細胞を移植することとし、宿主に関してはtomatoを恒常的に全身の細胞にて発現しているtomato/ROSA細胞のマウスを、マクロファージに関してはF4/80を用いて細胞を染色する。腫瘍組織からFACS AriaIIIを用いて各種細胞を分離採取する。分取した細胞を各々培養あるいは共培養して、マイクロアレイあるいはRNAseqによる発現プロファイルの解析、qRT-PCR、ウェスタンブロット法、細胞免疫染色等を行う。必要があればsingle nucleus RNAseqを行う。 予備実験は既に実施しており、条件検討等は多くの実験系で確立できているので、研究は支障なく推進できる。
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