研究課題/領域番号 |
21H02721
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
山本 雄介 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (60768117)
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研究分担者 |
横井 暁 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30737135)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍内不均一性 / 患者由来がん細胞 / 単一細胞発現解析 |
研究実績の概要 |
腫瘍研究領域では、樹立された細胞株を実験モデルとして使用することで、数多くの重要な病態生理が明らかにされてきた。しかし腫瘍組織を構成する個々の細胞の機能や寄与度の多様性・複雑性が明らかになるにつれ、単一の細胞株を使った研究だけでは腫瘍全体の理解には至らないというコンセンサスが得られつつある。本研究課題では、患者細胞ライブラリおよび単一細胞遺伝子発現解析によって、腫瘍組織を構成する様々な細胞の機能的差異や集団内における役割、細胞間コミュニケーションシステムを明らかにする。これまでに非浸潤性乳管がん(Ductal Carcinoma In situ, DCIS)の臨床検体を用いた単一細胞遺伝子発現解析を行い、そのがん細胞ならびにがん微小環境に含まれている細胞の不均一性の解明やがん細胞と免疫細胞の相互作用の予測を行った。その結果、非浸潤性乳管がんは浸潤がんと比較して、同等の相互作用を免疫細胞と行っていることを見出した。また、組織由来の遺伝子発現解析によって、子宮肉腫で活性化している遺伝子経路を明らかにし、創薬候補となる複数の化合物の同定を行った。さらに、肺の炎症疾患であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を対象とした単一細胞遺伝子発現解析の結果から、喫煙によって誘導される炎症性の2型肺胞上皮細胞の出現を明らかにした。それらの細胞は、通常の2型肺胞上皮細胞と比較して、非常に強い免疫細胞との相互作用があることや遺伝子発現プロファイルの観点から多様性があることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、患者由来がん組織を用いて、患者由来の細胞ライブラリの作製や単一細胞遺伝子発現解析を行うことの2つを軸に研究を進めていく。臨床検体を用いた単一細胞遺伝子発現解析については、非浸潤性乳管がんであるDCISや肺の炎症疾患のCOPDの解析において、非常に順調に解析が進んでいる。患者由来の細胞ライブラリの作製においては、COPDの一部において、炎症状態を維持したままの肺上皮細胞の培養に成功しているが、がん組織については、短期間の培養のみ可能であり、初代培養のがん細胞を2次元培養において長期間維持することはできていない。そのため、全体の進捗状況としては、当初の想定の通りに近い。
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今後の研究の推進方策 |
非浸潤性乳管がん(Ductal Carcinoma In situ, DCIS)の臨床検体を用いた単一細胞遺伝子発現解析と肺の炎症疾患であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を対象とした単一細胞遺伝子発現解析の研究成果はすでに論文投稿改定中である。DCIS については、データの再解析を行っており、論文修正の状況によっては、臨床検体を追加して解析を行う予定である。COPDの解析については、現在、解析を行う臨床検体を追加中であり、それらのデータが収集し終わったら、データの再解析を実施する。さらに、両研究においても、単一細胞遺伝子発現解析のデータを免疫染色によって、再検証する必要がある。FFPE検体を用いた解析を予定している。COPD患者由来の上皮細胞については、生体外で安定的に培養する手法を確立済みである。がん細胞においても、2次元の培養条件において、長期間培養可能なシステムの構築を行っていく。
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