研究課題/領域番号 |
21H02725
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
丸山 治彦 宮崎大学, 医学部, 教授 (90229625)
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研究分担者 |
菊地 泰生 宮崎大学, 医学部, 准教授 (20353659)
長安 英治 宮崎大学, 医学部, 准教授 (20524193)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 系統分類 / ゲノム / 寄生虫 / 糞線虫 / マンソン孤虫 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、18Sリボソーム遺伝子の塩基配列だけでは決定できない属から亜種のレベルでの系統関係を、幅広い寄生虫に対して高い信頼性で明らかにできる標準法を確立することである。2022年度は、新規に得られた両生類寄生性および爬虫類寄生性の種を含めたStrongyloides属の系統解析とマンソン孤虫と芽殖孤虫の分泌タンパク質の網羅的解析を実施した。 糞線虫の虫体は、ホンハブ、シマヘビ、イエアメガエル、ミーアキャット、ムツオビアルマジロから採取した。個別虫体からゲノムDNAを調整して塩基配列を取得し、ミトコンドリアゲノム上のタンパク質コード配列に基づく分子系統解析と核ゲノム遺伝子11個を用いた多遺伝子座系統解析を実施した。 核遺伝子の結果では、これまでに明らかにしてきたヒト糞線虫/タヌキ糞線虫群と乳頭糞線虫群に加えて、新たに両生類・爬虫類群amphibian/reptile infecting groupを糞線虫属内の明確な種グループとして見出すことができた。ドブネズミを宿主とするネズミ糞線虫と新世界ザル寄生性のS. cebusは、単独で糞線虫属の基部に近いところに位置していた。ただし、ミトコンドリアゲノムでの系統解析の結果では若干の種において食い違いがみられた。今後は、鳥類に寄生する糞線虫を加えて属内系統解析をおこないたい。 マンソン孤虫と芽殖孤虫の分泌タンパク質の網羅的解析では、それぞれ800個程度のタンパク質を同定し、量的な比較から各種に特異的に多い分泌タンパク質を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では最初にStrongyloides属線虫とSpirometra属条虫を多種類収集して全ゲノムシーケンスを実施し、シングルコピー遺伝子を用いた系統解析をおこなう。Strongyloides属線虫については順調に研究が進んでおり、哺乳類(ヒト、イヌ、ネコ、アライグマ、ニホンアナグマ、チョウセンイタチ、ミーアキャット、ニホンザル、ボリビアリスザル、アカアシドゥクラングール、ヌートリア、ウシ、ムツオビアルマジロ)、爬虫類(シマヘビ、ホンハブ)、両生類(イエアメガエル)から虫体を回収し、ゲノム解析をすすめている。Caenorhabditis属線虫やその他の自由生活線虫についても全ゲノム解析を進めることができた。 一方でSpirometra属条虫の虫体採取は、とくに海外からのものが依然として進んでいない。国内感染症例でも、新規のゲノム解析に堪える品質のDNAを得ることはできなかった。したがって、実験室内で維持されているマンソン孤虫と芽殖孤虫の発現解析をおこなうに止まっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画ではStrongyloides属線虫とSpirometra属条虫の両方において、200個程度の相同遺伝子を用いて信頼できる系統樹を作製するとしていた。しかしながらSpirometra属条虫のサンプル採取が進まなかったため、最終年度もStrongyloides属線虫に注力して研究を進める。これまでに、イヌ、ネコ、アナグマなどの肉食獣由来、反芻獣由来、霊長類(ニホンザル等)由来の個体が得られており、最終年度はさらにアフリカの大型霊長類、国内の爬虫類、両生類、鳥類から得たサンプルを追加する。ミトコンドリアDNAの塩基配列による系統解析は終了しており、核ゲノムの塩基配列をMiseqで取得する。 解析方法は、ネズミ糞線虫S. rattiのゲノム/プロテオーム情報でトレニングした遺伝子予測プログラムを用いて、各糞線虫種のシングルコピー遺伝子座についてエクソン-イントロン構造を予測し、タンパク質の推定配列を得て、系統解析を実施する。これと並行してCaenorhabditis属線虫の形態学的情報、mating incomparability情報、食性情報と遺伝子配列に基づく分類との比較解析をすすめ、少なくとも線虫類において、塩基配列によらない分類と高い相関の得られた遺伝子群を「分類に役立つ」遺伝子セットの候補とする。 得られた遺伝子セットの分類への一般的な有用性を調べるために、これまでに全ゲノム情報が得られているCaenorhabditis属以外の自由生活線虫、フィラリア類、農業病害線虫に適用し、再現性を検定する。満足すべき結果が得られれば条虫類、吸虫類ゲノムへ適用し、新種記載等に利用する。
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