ピロリ菌の病原因子群の発現抑制性small RNA (sRNA) HPnc4160の発現は、sRNAコード領域上流のチミジン連続配列部分の相変異により、オシレーション変化を示した。長期感染におけるHPnc4160のオシレーション発現の意義を明らかにするために、HPnc4160欠損組換えピロリ菌を作出し、マウスに胃内接種してから2ヶ月後の長期感染時の胃内定着菌数を確認した結果、欠損株や野生株に比べて有意に胃内定着菌数が少なかった。このことから、HPnc4160は、菌体の持続感染成立に重要であることが示唆された。 チミジン連続配列長は、短くてもHPnc4160発現量が高い場合と低い場合があり、また、配列長が長くとも、Hpnc4160発現が高い場合と低い場合がある。連続配列長の長短と持続感染との関係を調べるために、連続配列が短くHPnc4160発現が高いT4と発現が低いT1、および、連続配列が長くHPnc4160発現が高いT18と発現の低いT16の変異株を作製した。マウス感染実験の結果、長期 (2ヶ月)感染後の胃内定着菌数は、もともとのHPnc4160発現量に関わらず、チミジン連続配列長の長い菌株 (T16およびT18)は、チミジン連続長の短い菌株 (T1およびT4)の場合に比べ、胃内定着菌数が有意に高かった。胃内定着菌を単離し、ゲノムの連続T配列長を確認したところ、T1およびT4ではほぼチミジン連続長に変化はみられなかったが、T16およびT18、経時的にチミジン連続配列長の異なる菌が出現していた。すなわち、HPnc4160はピロリ菌が生体に適応して持続感染を成立させる過程で、多様なチミジン連続配列長を示す菌株のバリエーションを増やすことで、HPnc4160発現およびHPnc4160が発現制御する病原因子の発現量が異なる多様な菌が増大し、宿主に適応していることが示唆された。
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