研究実績の概要 |
ピロリ菌の病原因子群発現抑制性small RNA HPnc4160は、相変異によって発現が変動する。HPnc4160によってmRNA発現制御を受ける多くの新規病原因子群は、配列ホモロジー検索から、菌体が宿主と接する際の最前線の分子である外膜タンパク質であった。そこで、HPnc4160の制御因子であるPomY, 、PomZおよび、HPnc4160に依存しない相変異により発現制御を受けるPomXの遺伝子欠損変異株を作製した。欠損変異株の解析から、これらの遺伝子は、菌体の生育、鞭毛による運動能、およびIV型分泌装置活性には影響がないことが明らかになった。マウス感染実験の結果、これらの因子はマウスの胃内定着に関与することが判明した。次に、宿主結合因子をプルダウンアッセイにより同定するために、大腸菌リコンビナントタンパク質作製を試みた。膜貫通領域を保持したままで全長の組換えタンパク質作製は、技術的に困難であったことから、菌体外領域のみを発現する組換えタンパク質作製を試みた。AlphaFoldによるタンパク質立体構造予測の結果、PomXおよびPomYについては、一本のポリペプチド鎖で菌体外領域が形成されていたことがら、菌体外領域のみの組換えタンパク質を作製した。全長タンパク質のリコンビナントタンパク質精製ができなかったPomZは、膜貫通領域を除く菌体外領域が複数のポリペプチド鎖に分かれていることが予想されたため、主要なポリペプチド鎖のみの部分タンパク質を作製した。胃上皮細胞溶解液とのプルダウンアッセイの結果、PomYについては結合候補タンパク質を複数得たものの、PomXおよびPomZについては明確な結合因子が得られなかった。PomYの結合宿主因子は、胃上皮細胞内でピロリ菌感染部位に集積がみられたことから、当該因子は、PomYを介した細胞付着に関与する可能性が考えられた。
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