病原性レプトスピラは、宿主細胞の細胞間接着装置を構成するAdherens Junction(AJ)を破壊し、腎臓などの標的臓器に辿り着くことが明らかになってきた。従って、このAJ破壊分子機構を理解することはレプトスピラ症の重症化と本菌の標的臓器への移行を遮断するために重要である。AJは、上皮細胞シートのバリアとして働き、シグナル伝達や臓器機能の維持にも重要である。AJは、膜タンパク質であるE-cadherinを中心分子とし、E-cadherinの細胞質側には多数の裏打ちタンパク質が存在する。また、細胞質側には細胞膜と平行に走行するアクチン束が集まっている。我々は、レプトスピラはF-アクチン骨格を変形させ、E-cadherinの細胞内取り込みを誘導することによってAJを破壊することを明らかにしてきた。本研究課題では、病原性レプトスピラがどのような分子やシグナルを介してAJを破壊するかを明らかにし、レプトスピラの標的臓器への移行を遮断するための新たな治療法への分子基盤構築を目指す。 これまでの研究成果として、病原性レプトスピラはAJの裏打ちタンパク質であるp0071とp120-cateninの分解を誘導することを報告した。また、p120-cateninの分解はプロテオソームとリソソーム阻害剤(MG-132とバフィロマイシンA)で阻止されることを明らかにしてきた。 令和5年度はさらに、プロテオソームとリソソーム阻害剤はレプトスピラによるF-アクチン骨格の変形を阻止することを明らかにした。また、3次元電子顕微鏡を用いて感染上皮細胞層のモデリングを行い、感染18時間後には細胞層が破綻され、多数のレプトスピラが細胞間隙に観察された。一方、プロテオソームとリソソームを阻害した感染細胞では、細胞構造と密度が維持され、レプトスピラは細胞内に留まっていることがわかった。
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