潰瘍性大腸炎とクローン病に大別される炎症性腸疾患(IBD)は、日本において患者数が増加している疾患であるが、根本的治療法の開発に至っていない。細胞傷害関連分子パターン(DAMPs)による無菌性炎症の誘導は、組織修復および生体恒常性維持に必須である。しかし、過剰もしくは遷延性のDAMPs依存的な炎症応答は組織破壊につながるため、内在性DAMPsの量およびシグナル伝達経路は厳密に制御される必要がある。本申請研究では、DAMPsの一種であるLysoPSやUDP-glucoseがGタンパク質共役受容体を介して腸管恒常性維持および腸管炎症発症とその病態におよぼす影響を明らかにすることで、IBD新規治療法開発の基礎基盤提供を目指す。研究代表者は、潰瘍性大腸炎患者の大腸粘膜において損傷を受けた細胞や活性化した細胞が放出するUDP-glucoseを認識するP2Y14受容体の発現が亢進していることを見出した。昨年度までに、(1)デキストラン硫酸塩(DSS)誘導性大腸炎(潰瘍性大腸炎モデル)を起こしたマウスの大腸では、UDP-glucoseの濃度が顕著に上昇すること、(2)大腸組織では好酸球特異的にP2ry14 mRNAが高発現していること、(3)DSSを投与したP2ry14欠損マウスでは、好酸球の減少に伴い大腸炎が軽症化することを明らかにしていた。本年度は、好酸球におけるP2Y14授与体下流シグナルの解析を行った。その結果、DSS投与後に大腸粘膜固有層に浸潤した好酸球においてP2Y14受容体―UDP-glucoseシグナルがERK1/2を活性化すること、ERK1/2シグナルは大腸好酸球の寿命延伸および炎症関連分子の発現亢進を誘導することを明らかにした。これらの結果から、UDP-glucose―P2Y14受容体シグナルを標的とした潰瘍性大腸炎の新規治療法開発が期待される。
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