研究課題
免疫細胞の分裂増殖は、抗原特異的なクローンを増幅するだけでなく分化方向の決定とも連動することが知られており、免疫応答の特性を決定する重要要素である。抗原に反応したリンパ球が適切に細胞分裂を開始し、適切なタイミングで分裂停止するメカニズムの一つとしてポリコーム抑制複合体PRC2を構成するEed遺伝子を候補として見出した。PRC2複合体はヒストンメチルトランスフェラーゼ活性をもち、主にヒストンH3のK27をメチル化する酵素であり、サイレンシングされるゲノム領域の標的化を行うことが知られている。Eed遺伝子をT細胞特異的に欠損させたマウスを作成したところ、NKT細胞の胸腺分化が完全に阻害されることを発見した。さらに詳細に解析を進め、NKT分化が停止する分化段階を特定できた。現在その要因となっている分子メカニズムの解析を行っている。またEed遺伝子をB細胞特異的に欠損させたマウスを作成したところ、B細胞分化が骨髄内の早期に停止することを見出した。結果として成熟したB細胞が抹消組織から消失し、IgM, IgG抗体価はいずれも著しい減少を示した。一方で、IgA抗体価は正常値であったことから、IgA産生に至るB細胞の分化経路が他の抗体産生経路と異なることが示唆された。またB細胞分化の全域におけるEedの発現パターンを解析したところ、胚中心反応においてEedの発現が上昇することを見出した。そこで胚中心B細胞特異的にEedを欠損するマウスを作成したところ、B細胞のクラススイッチ組換や体細胞突然変異が正常に起こらないことが判明した。これらB細胞の異常についてもその要因となっている分子メカニズムの解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
結果に間違いがないことを慎重に確認しながら研究を進めることで、大きく研究が後退することなく明らかにすべき点について一つ一つ取り組み、着実に前進している。研究室の教員や学生の実験手技や研究に対する意識が向上しており、順調な進展につながっていると感じている。
EedfloxマウスをT細胞特異的CreマウスやB細胞特異的Creマウス, 胚中心B細胞特異的Creマウスと交配させたマウスを用いて、引き続き免疫応答に関する研究を進める。T細胞特異的Eed欠損マウスの特にNKT細胞に関する影響について、標的遺伝子をRNA-seqやChip-seqにより特定し、PRC2-EedがNKT細胞の分化をどのように制御しているのか明らかにする。またB細胞特異的Eed欠損マウス、胚中心B細胞特異的Eed欠損マウスの解析は抗体アイソタイプごとのB細胞分化経路について、各種臓器を横断し、IgM欠損であるμMTマウスや抗体産生細胞が特異的に欠損するPrdm1ノックアウトマウス、B細胞を特異的にマーキングするMb1CreERT2;R26EYFPマウスなども並行して解析することで、生体のB細胞分化システム全体を対象に細胞レベル、分子レベルで説明のつく抗体産生の制御メカニズムを明らかにする。これら制御メカニズムの解明に向けては、ゲノムやトランスクリプトーム解析を詳細に行う必要があり、そのためのバイオインフォマティシャンに新たに加えた研究体制でオミクス解析を行う。Eedの標的の一つとして見出している、Arfについてもfloxマウスや、Arf発現細胞可視化マウスにより、外来蛋白質抗原(NP-CGG)に対する免疫応答における分裂回数制御や不死化への影響を明らかにする。抗原に増殖応答したGC B細胞でのArf発現変化を分裂回数や分化指標(胚中心B細胞、記憶B細胞、形質細胞)と合わせて解析し、B細胞の分裂限界制御におけるArfの役割を1細胞レベルで明らかにする。外来抗原に対する二次応答やB細胞分化、加齢に伴う免疫応答性の変化との関係、がん遺伝子ドライバー存在下や自然誘発がんの条件下での不死化への影響について調べる。
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Cancers
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10.1016/j.jphs.2022.01.005