肺がんや乳がんを代表とする多くの固形がんで、受容体型チロシンキナーゼファミリー分子HER1~4の発現増幅や自己活性化変異が認められることから、HER1~4、特に HER1とHER2の制御剤が開発され、臨床応用に至っている。一方、正常細胞では、このHER活性化は一過性に起こり細胞増殖分裂周期を起動させた後、プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)により脱リン酸化/不活性化され、細胞分裂が連続的に起こるのを防ぐ。しかしPTPの制御機構は不明のままであった。 我々は、HER1/2の活性化を制御する分子として CUL3-KCTD10ユビキチン (Ub)E3リガーゼを同定し、これが RhoBをポリUb化し分解へと誘導することでHER1/2を活性化すること、また逆に、RhoBレベルの上昇はHER1/2の脱リン酸化を誘導し、HER2陽性乳がん細胞の増殖を抑制することを示した。さらに、RhoBが直接制御する標的因子として CNKSR1-PTPRH(HER1/2標的PTP)複合体を同定し、2022年度にはCNKSR1-PTPRH複合体形成阻害がHER1/2抑制に有用であることを示した。2023年度は、既得のCNKSR1-PTPRH結合阻害低分子化合物RS-1の構造関連誘導体を入手し、CNKSR1-PTPRH AlphaScreenシステムを用いて結合阻害活性スクリーニング、及びHER2陽性乳がん細胞でのEGFR/HER2リン酸化抑制活性をwestern blot法にて検討した。その結果、RS-1のCNKSR1-PTPRH結合阻害活性を上回る化合物6種を同定し、この6種全てにおいて、EGFR/HER2リン酸化抑制活性を確認するとともに、細胞増殖抑制効果を確認できた。乳がんのマウス Xenograft モデルを用いて、得られた化合物の効果判定は、現在進めている。
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