研究課題/領域番号 |
21H02768
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
丸山 剛 早稲田大学, 高等研究所, 准教授(任期付) (30613872)
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研究分担者 |
大庭 賢二 自治医科大学, 医学部, 講師 (20759576)
河野 恵子 沖縄科学技術大学院大学, 膜生物学ユニット, 准教授 (30632723)
藤枝 俊宣 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (70538735)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 上皮細胞の免疫細胞様機能 |
研究実績の概要 |
これまで哺乳類の細胞競合では、がん遺伝子を持つがん変異細胞の押出排除が注目されてきた。しかし一方で、細胞外ストレスによってがんが誘発される事例も知られている。そのようなストレスの一つとして細胞膜損傷があり、生体内において筋肉収縮や消化器系の蠕動運動などの物理的ストレスで細胞膜はしばしば損傷を受ける。このような生理的活動で生じた細胞膜損傷を経験した細胞(細胞膜損傷-細胞 Membrane-Damaged cells: MDed細胞)は老化細胞となり、発がんへ進行する。最近我々は、上皮細胞はこのMDed細胞のMHC-Iを認識し、押出により排除するのみならず、貪食により排除することを見出している。 これまで得られている1つ目の重要な点として、MDed細胞のみを培養したときには、上述のような押出および貪食排除は観察されない。すなわち、MDed細胞に対する貪食は、細胞間相互作用によって誘導される新規の細胞競合現象である。2つ目として、これまでの解析からMHC-Iが、MDed細胞に対する正常細胞の押出および貪食排除を促進する。加えて3つ目として、周辺正常細胞でのAltR遺伝子欠損(KO)はMDed細胞の「押出排除」を低下させたが、AltR-KOは「貪食作用」へは影響しなかった。すなわち、押出排除については我々が見出したMHC-I/AltRの相互作用で制御されているが、正常細胞の貪食作用を促進するMHC-Iのさらなる受容体が存在すると期待される。 本研究では、i) 細胞膜損傷を受けた細胞が周辺正常細胞によって貪食されるメカニズムを解明する。さらに、細胞膜損傷以外のii) どのような細胞外ストレスを受けることが押出・貪食排除の対象になるかへと展開する基盤を構築する。これにより、上皮細胞によるMHC-I認識を基にした押出排除や貪食作用の惹起を介した効率的な発がん関連-異常細胞の排除を促進する、がんの予防的治療医療へと繋げる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Q1. MHC-IaとIbの「活性化」スイッチング制御機構の解明 MHC-Iは、古典的MHC-Iaと非古典的MHC-Ibとに分類される。これまで細胞膜損傷による細胞の押出排除にはMHC-Iaが関与する。一方で、MHC-Ibは細胞膜損傷で誘導され、貪食に関与する知見が得られている。そのため、非古典的MHC-Ibの制御因子が貪食の制御に重要な役割を果たすと考えられる。MHC-Ibの制御機構を解明するために、細胞膜損傷で誘導され、かつMHC-Iに関連する分子群に注目した。抽出法としては、Twitter解析でも注目されている「Ruby言語を基にしたWebクローラー法」にて、文献横断的かつ網羅的な遺伝子探索をおこなった。その結果、Chmpsファミリーが有力候補として絞り込まれた。この分子を中心に以下の解析をおこなう予定であった。 Q1-2. MHC-Iリン酸化とCondensate形成を介した相分離制御 今回Webクローラー・スクリーニングで抽出したChmpsは、相分離に関わるとされる天然変性ドメインを持つ。天然変性ドメインを持つタンパク質は脂質膜非依存的な区画(condensate)を液液相分離により形成する。そのため、MHC-IaとIbのリン酸化状態とMHC-Iを中心としたcondensate形成の相関性を、蛍光観察が同時に可能なホログラフィー顕微鏡にて検討する。これにより、MHC-IaとIbの相分離依存的な活性の違いという観点から、押出・貪食誘導のスイッチング機構の詳細を解明する。 しかしながら、MHC-Iの結晶構造から上皮細胞の貪食様機構を担う最小作用部位が見つかった。この部位由来のペプチドは、貪食を促進させる効果がある。また、この部位に結合するタンパク質をペプチドアレイスクリーニングにより同定できる。現在そのスクリーニングを行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で記載したとおり、すでにスクリーニングを行っている同スクリーニングを行い、新規に同定されるであろう分子について、これまで予定していた以下の解析を行う。また、スクリーニングでは同定できない可能性もあるため、これまで予定していた探索も平行していおこなう予定である。 MDed細胞の排除はMHC-Ib依存的におきることから、通常の貪食関連因子、例えばフォスファチジル・セリンなどの死細胞の“eat me”シグナル依存的な貪食促進とは異なる機構で、貪食作用を誘導することが示唆される。しかし、MDed細胞の貪食を誘導するMHC-Ibの正常細胞側の受容体は不明である。すでにSignal-regulatory protein(SIRPs)、Tyro3/Axl/MerTK(TAMs)、Kidney injury molecule(KIMs)、及びNK受容体(NKRs)を候補としており、これらが周辺細胞の貪食作用を誘導するかを検討する。また、これらの分子が関連しない場合を想定して、Bio-layer Interferometry法と質量分析法を組み合わせた手法により、MHC-Ibのカウンターパートを同定する。 上記項目における同定分子については、界面活性剤での細胞膜損傷実験に加えて、特殊顕微鏡を用いたレーザーでの細胞膜損傷誘導についてOIST・河野恵子 准教授と共同で進める。また、伸縮運動を連続的に発生する装置(ShellPaなど)を用いたCyclic-細胞膜損傷モデルでのin vitro解析を行う。さらに、東工大・藤枝 俊宣 講師と開発を進めているin vivo Cyclic 刺激装置を用いたマウスin vivo Cyclicモデルを用いて腸管上皮に生じたMDed細胞が貪食されるかを解析する。対象遺伝子に関しては、コンディショナル・ノックアウトもしくは自治医科大学・大庭 賢二 講師と共同でアデノ随伴ウイルスを用いたin vivo ノックダウンで必要性を証明する。
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