大多数の大腸癌ではWntシグナル経路の異常亢進が起こっており、癌遺伝子c-Mycが細胞の癌化に関わる最も重要なWntシグナル標的因子の一つであると考えられている。これまでの研究によって、我々はWnt/c-Myc経路の直接の標的因子として新規lncRNA(long non-coding RNA):MYUを見出し、MYUが大腸がん細胞の増殖に必須であることを明らかにしてきた。本研究では、これまでの研究内容をさらに発展させ、Wnt/c-Myc/MYUカスケードが関わる大腸癌発症機構の理解を深めることで大腸癌の新しい分子標的治療法開発の為の足掛かりを得ることを目的とした。 前年度までの研究から、non-coding RNAに分類されていたMYUからはペプチドが発現している可能性を示唆するデータが得られていた。そこで内在性MYUペプチドの存在や機能を明らかにするために、MYUペプチドに対する抗体作成を試みた。現在までに、MYUペプチド-C末端領域の抗原ペプチドを免疫したウサギから得られた抗血清を用いて、抗原アフィニティーカラムによる目的抗体の精製を行った。今後、得られた抗体の特性評価を進めるが、精製した抗体の性能が良くない場合に備えて、上記とは異なった部位に対するGST融合蛋白質を新たな抗原として準備した。また、本研究で使用するマテリアル(オルガノイド)の調整も進めた。神戸大学医学部附属病院よりヒト大腸がん手術検体の供与を受け、既報に則って大腸がん組織および手術時に同時に切除される周辺正常組織からそれぞれのオルガノイドの樹立を試みた。現在までに、4症例で継代によるオルガノイドの増幅が観察できたため、凍結保存を行うなどの実験基盤の整備を進めた。
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