大多数の大腸癌ではWntシグナル経路の異常亢進が起こっており、癌遺伝子c-Mycが細胞の癌化に関わる最も重要なWntシグナル標的因子の一つであると考えられている。これまでの研究によって、我々はWnt/c-Myc経路の直接の標的因子として新規lncRNA(long non-coding RNA):MYUを見出し、MYUが大腸がん細胞の増殖に必須であることを明らかにしてきた。本研究では、これまでの研究内容をさらに発展させ、Wnt/c-Myc/MYUカスケードが関わる大腸癌発症機構の理解を深めることで大腸癌の新しい分子標的治療法開発の為の足掛かりを得ることを目的とした。 これまでの研究から、翻訳されないRNAとして分類されていたMYUからはペプチドが発現している可能性を示唆するデータが得られていた。そこで、内在性MYUペプチドの存在や機能を明らかにするために、MYUペプチドに対する抗体の作成を試みた。MYUペプチド(C末端領域)を免疫したウサギの血清からアフィニティーカラムを用いて精製していた抗体について、2022年度はウエスタンブロット法による抗体の特性評価を行った。使用するサンプル量や抗体濃度を変えるなどの様々な条件を試したが、MYUペプチド以外の非特異的なバンドが多数検出され、抗体の特異性に大きな問題があることが分かった。そこで、上記のMYU-C末端領域とは異なった領域のGST融合蛋白質(GST- MYUペプチド)を調整し、GST- MYUペプチドを抗原とした新たなウサギ抗血清を作製した。今後、得られた血清から目的抗体を精製し、MYUペプチドの機能解析を進める。一方、本研究で使用するマテリアル(オルガノイド)の調整は順調に進んだ。神戸大学医学部附属病院よりヒト大腸がん手術検体の供与を受け、これまでに正常大腸組織由来10株、大腸がん組織由来5株のオルガノイドの樹立に成功した。
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