研究課題/領域番号 |
21H02776
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川上 正敬 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90438648)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | KIFC1 / 過剰中心体 / 多極性細胞分裂 / 肺癌 |
研究実績の概要 |
正常細胞では中心体数が2つに厳密に制御されるが、癌細胞では中心体が2つより多い過剰な中心体の存在が知られ、これは癌細胞のhallmarkの1つである。細胞分裂の際に過剰中心体が二極に収束することで癌細胞は正常な二極性細胞分裂が可能となるが、申請者らはこれまでにサイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の阻害により、過剰中心体収束が阻害され、癌細胞が多極性細胞分裂を余儀なくされアポトーシスに至るanaphase catastropheが誘導されることを報告した(Kawakami M et al. J Natl Cancer Inst.2017; Kawakami M et al. Mol Cancer Ther.2018)。しかしCDK2は本来、中心体収束以外にも細胞周期進行に重要な働きを持ち、その阻害は正常細胞にも有害な細胞周期阻害作用を呈し、癌の治療標的として最適ではない。本研究では、中心体収束に特異的に働く標的分子を新規に同定し、anaphase catastropheを癌治療機構として確立することを目指す。 まず、21,125遺伝子に対するsiRNAライブラリーを用い、過剰中心体を高頻度で持つマウスED1肺癌細胞及びヒトHop62肺癌細胞に導入し48時間後に蛍光染色で得られた細胞像から、過剰中心体収束を阻害し多極性細胞分裂を誘導するsiRNAをスクリーニングし、キネシンタンパクの一つであるKIFC1(HSET)を有力標的分子として同定した。 KIFC1が肺癌の治療標的となるかを検証するために、マウス及びヒト肺癌細胞株、コントロールとしてマウス肺胞上皮細胞(C10)とヒト気道上皮細胞(BEAS-2B)を用い、siRNA及びCRISPR-Cas 9による遺伝子工学的手法と、特異的阻害剤(CW069、AZ82)でKIFC1を阻害した。遺伝子工学的手法によるKIFC1の阻害は、定量的PCR及びウェスタンブロットにてRNA及び蛋白レベルでのKIFC1発現低下を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回、KIFC1阻害の肺癌での効果を示すために、できるだけ多くの肺癌細胞株(マウス及びヒト)を実験対象としており、それぞれの細胞でKIFC1の遺伝子工学的阻害の条件検討を行う必要があり、当初の想定より多くの時間を要した。また、KIFC1の阻害剤とされるCW069及びAZ82については、まずはKIFC1への特異性の確認が重要と考え、KIFC1を強制発現させることでこれらの阻害剤による肺癌細胞での細胞増殖抑制効果がレスキューされるかを調べる必要があると考え、このため、実験計画作成当初は予定していなかったKIFC1のクローニングと発現ベクターの作成にとりかかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、KIFC1阻害の肺癌細胞における薬剤効果として、ATP定量による細胞増殖アッセイ、アネキシンV/PI染色によるアポトーシスアッセイ、BrDU染色による細胞周期アッセイ、βガラクトシダーゼ検出によるセネッセンスアッセイ、細胞遊走能・浸潤能アッセイなどの機能解析を予定している。これらについては、遺伝子工学的及び薬理学的の異なる方法でKIFC1を阻害することで、その効果をより確実に検証する。KIFC1阻害剤であるCW069及びAZ82については、KIFC1への特異性の確認のため、KIFC1強制発現によるこれらの阻害剤効果のレスキューの有無を調べる必要がある。 また、KIFC1を阻害後にHoechst染色でDNA(染色体)を、また、紡錘糸(α-tubulin)、中心体(中心体マーカーとしてγ-tubulin)をそれぞれ蛍光染色し、KIFC1阻害によるanaphase catastrophe誘導の有無を調べ、さらに、タキサン系薬剤など微小管を標的とし、最終的に染色体分離異常をもたらす他の抗癌剤とKIFC1阻害剤の併用効果についても調べる。
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