最近、次世代シーケンス(NGS)の開発により腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のTCRレパトアの解析やsingle cell RNA seqによる単一細胞レベルでの解析などの技術発展により腫瘍抗原特異的TILに関する知見が急速に進んでいる。そのような状況下、抗原未知の腫瘍特異的TILの抗原の同定を目指した抗原同定法の開発が世界中で進められている。 近年、Stanford UniversityのMark Davisらのグループは酵母ファージディスプレイとNGSを組み合わせたTCRの抗原同定法を開発し、がん患者のTILより取得したTCRの抗原同定を行った。しかしながら、この方法では可溶性peptide/MHCテトラマーを大量に作製する必要があり、またHLAの種類によってはpeptide/MHCが作製できないなど技術的な制限が強い。本研究では、マイクロアレイチップを用いることで偶然発見した我々独自の新知見「T細胞Cis-activation」を応用した革新的なTCR抗原同定法の開発を行う。本研究提案により腫瘍浸潤TILのTCRの抗原同定が短期間に可能になり、TCR遺伝子治療に寄与する高機能TCRの効果や副作用の予測が容易になると考えられる。また、TILの抗原同定により抗原ペプチドを用いたがんペプチドワクチン療法への応用も期待される。 本年度はこれまで検討した条件および作製したcDNAライブラリーを用いて抗原未知のTCRの抗原同定を行なった。そのため、抗原未知のTCRを発現させた健常人末梢血T細胞とcDNAライブラリーを導入したCos7細胞とを反応させたが有意な反応を検出することができなかった。その理由として作製したcDNAのライブライーサイズが十分ではなかった可能性が考えられた。そこで、cDNAライブラリーの作製方法の再検討を行い、以前のものより10倍以上のライブラリーサイズをもつcDNAライブラリーを作製することができた。現在は作製したcDNAライブラリーを用いて、抗原未知のTCRの抗原同定を進めている。
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