免疫チェックポイント阻害薬は、不応例に対する併用療法の開発と、奏効例を選別するバイオマーカーの探索が必要である。本研究では、不応例の原因となる免疫抑制機構のメカニズムの一つとして、ER(小胞体)ストレスが関与し、それは加齢による影響を受けている可能性を検証し、ERストレスを標的としたがん免疫治療法を開発することを目的とした。前年度までに、抗腫瘍T細胞がERストレスを受ける原因として、脂肪酸代謝が関与している事を明らかにした。脂肪酸飽和に関与する酵素であるSCD-1 (stearoyl-CoA desaturase 1)の阻害薬は、T細胞のERストレスを軽減し、さらに増殖などの機能も増強できる事が明らかとなった(Kato et al. J Immunother Cancer. 10 e004616 2022)。 本年度は、ERストレスがT細胞機能を抑制するメカニズムとその老化との関連に関して、研究を行った。担癌マウスでは、老化に伴いERストレスが増大していた。老化に伴い減少する代謝物の一つが、ERストレスに関与するタンパクに結合し、そのタンパク機能及びT細胞機能を増強させることを見いだした。次に、ERストレスシグナルの下流で変動する遺伝子を解析したところ、T細胞機能に重要であると報告のある転写因子が含まれていることを見いだし、この転写因子がERストレスシグナルに直接制御されていることを証明した。さらに、上記代謝物を老化マウスに投与すると、ERストレスを軽減させることが出来、免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強させることが出来た。以上より、ERストレスは抗腫瘍免疫応答を増強させるための治療標的になり得ること、さらにこれにより、老化による免疫抑制を克服できる可能性が示唆された。
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