研究課題/領域番号 |
21H02788
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塚本 博丈 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10433020)
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研究分担者 |
冨田 雄介 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (90648619)
池田 徳典 崇城大学, 薬学部, 准教授 (00613530)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 免疫老化 / がん免疫療法 / 有害事象 / PD-1 |
研究実績の概要 |
PD-(L)1阻害療法は、新たながん治療の選択肢として更なる普及が予想される一方、自己組織の傷害、機能不全ー免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events: irAE)が出現することが大きな問題となっている。特に重篤な症状が出る患者は治療を中断せざるを得ず、治療の妨げとなっている。本研究課題は、このirAEの制御法開発を目指して、その基盤となるirAEの発症機序の解明を目的として行われる。 2021年度は、これまでに樹立を目指してきた老齢マウスを用いたirAE実験モデルの確立、及びその評価を行い、現在はその成果を学術論文として投稿しているところである。さらに、研究計画時に提唱した仮説である「個体老化に伴って発現する自己抗原を認識する自己応答性T細胞が、PD-1阻害療法により活性化され、組織を傷害する」という仮説に基づき、irAE実験モデルを検討した結果、抗体を介した自己組織の認識、傷害が、irAE症状の大きな原因となっていることを見出した。そして、このことを利用し、irAE実験モデルより精製した抗体と結合する抗原が自己抗原候補となると考え、その探索を行った。現在は自己抗原候補をいくつか選定し、その抗原性について、irAE実験モデル等を用いて、更なる検証を行っている。 また2021年度には、irAE実験モデルの検討にて得られた知見を、研究分担者と協力して、がん患者検体を用いた前臨床研究として検証することも行った。この過程で患者検体を用いた前臨床研究のネットワークを構築することができ、目標とするirAEの発症予測、症状改善戦略の開発についてのPOC確立に大きく貢献する研究基盤の構築に着手できた。特に、irAE実験モデルを用いたirAE誘導性自己抗原に対する抗体の有無を検証する上でも、この前臨床研究ネットワークは大いに役立つはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、本研究課題計画時に提唱した仮説に基づき、特にPD-1阻害療法に伴う免疫関連有害事象(irAE)を引き起こす実験モデルの確立と、その評価を行い、仮説を支持する結果を得ることができた。特に、老齢マウスを用いて樹立したirAE実験モデルは、これまでほとんどなされてこなかったin vivoでのirAE発症機序の解析を可能にし、その解析の結果、irAE発症の予測の指標、あるいは症状の改善の標的となり得る分子を見出すことができた。これらの発見は、今後の本研究課題の進展を加速させる土台となり、本研究が目指すPD-1阻害療法に伴う有害事象のリスクを軽減するためのアプローチ開発に大きく貢献すると思われる。 さらにこの知見を元に、研究分担者とともにがん患者検体を用いた解析基盤を構築し、マウスモデルによって示唆される仮説を支持する予備的結果を得た。以上のことから、本研究課題は、当初計画された通りにおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に本研究課題にて研究者が独自に確立したirAE実験モデル、及びそれをもとに得られた知見を用いて、2022年度以降は、irAE発生の根本原因となる自己抗原を同定し、本研究課題の大きな目標であるirAEの発症予測のシステム構築に注力する。具体的には、昨年度までに選定したirAEを引き起こす可能性のある自己抗原候補の幾つかについて、irAE実験モデルを用いたin vivoの解析によりその重要性を検討し、真の自己抗原候補を絞り込む。そして、2021年度に同定した、「irAE発症の予測の指標、あるいは症状の改善の標的となり得る分子」と、自己抗原に対する抗体の両者を指標にして、irAE発症予測がより精密にできる予測システムの構築、検査キットの開発を行う予定である。 この予測システムの構築には、PD-1阻害療法を受けたがん患者の検体を用いて、irAE発症予測のバイオマーカーとしての有効性を検証することも必要不可欠であるため、2022年度も引き続き、研究分担者と協力をして、がん患者の検体の採取、保存、コホートの規模拡大を行い、前臨床研究の推進を図る。そして、より大きな規模での患者検体解析を行うことにより、信頼性のあるデータを得られるよう、本研究を発展させるつもりである。 また、基礎研究の観点から、irAE動物実験モデルにおいて「irAE発症の予測の指標、あるいは症状の改善の標的となり得る分子」の発現細胞を同定し、詳細な発現制御メカニズムの解析も行う予定である。そして、これらの細胞と炎症制御、免疫老化との関連を明らかにすることを目指す。その成果は、新たな複合がん免疫療法開発のみならず、老化関連疾患の理解にも寄与するはずである。
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