本研究では,報酬条件が逆転する事を予期するマウスを用いて,予測に基づく価値を表現する神経細胞の同定を目指す.それらの神経活動を抑制した際,予測的な行動が抑制されるかどうか調べる事で,予測的価値を行動に変換する神経機構を明らかにする. 初年度では,予測的な行動を行う頭部拘束マウスを多数供給できる体制を確立した.具体的には,報酬10回目で必ず報酬条件が変わる連続逆転学習課題をマウスに学習させた.もし過去の報酬履歴から行動を選択するならば,Win-Shift 選択確率(報酬が得られる行動をやめ,他の選択肢を選ぶ確率)は,ブロック内での学習が進むと低下すると予想される.実際に正答率の低い Novice マウス (正答率60%未満)では,Win-Shift 選択確率はブロック内で低下していった.しかし正答率の高い Expert マウス (正答率70%以上)ではブロックの後半に向けて,Win-Shift 選択確率が高まっており,ブロックの切り替わりでちょうど逆転行動を数多く行う個体が得られた.この結果は,Expert マウスが課題の構造を学習し,報酬条件の変化を予測している事を示唆している. これら予測的行動を行うマウスの前頭皮質神経細胞よりカルシウムイメージングを行ったところ,予測に基づいた価値計算を行うことを示唆する神経活動が観測された.また光遺伝学をもちいて課題遂行中に観測領域を抑制したところ,予測ができないことを示唆する行動が観測された.
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