発作性運動誘発性ジスキネジア (PKD) は急激な動作により不随意運動を呈する神経疾患であり、PRRT2の機能消失変異を原因とする。研究代表者はPKD変異を導入したPrrt2ノックイン マウスを作製し、大脳基底核の線条体に着目してPrrt2の役割を解析してきた。前年度までに、Prrt2変異が線条体における活動依存的なドーパミン放出を増加させること、及びL-ドーパ誘発性運動障害を増悪させることを見出している。L-ドーパ誘発性運動障害とドーパミン作動性ニューロンの過活動の関連性を明らかにするために、令和5年度は、L-ドーパ投与による線条体ドーパミン濃度変動を解析した。この解析は【項目8】[PKDの創薬標的および治療薬候補の選定と治療有効性の検証] に関連する逆方向的アプローチであり、症状増悪のメカニズムを明らかにし、発症機序に即した治療法の基盤構築を目指す位置づけである。 活動依存性のドーパミン放出を解析するために、100 mg/kg L-ドーパまたは溶媒(コントロール)投与の30及び60、90、120分後に60 mM KClで興奮刺激を与え、ドーパミン放出量の推移を解析した結果、コントロール群では、Prrt2変異によるドーパミン放出増加は、KCl刺激を繰り返すにつれて(特に3回目、90分の刺激以降)減少したが、L-ドーパ群では、4回のKCl刺激の間、高レベルのドーパミン放出が維持された。Prrt2変異依存性の運動障害は100~200 mg/kg L-ドーパ投与後60分または90分以降に起こることから、L-ドーパによるPrrt2変異依存的なドーパミン濃度上昇が起こるまでの時間は運動障害の発現のタイミングとほぼ一致しており、両者の因果関係が示唆される。よって、神経興奮時にドーパミン作動性ニューロンの過活動が長期化することが、PKDの運動障害に関連すると考えられる。
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