研究課題/領域番号 |
21H02816
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
加藤 総夫 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20169519)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 腕傍核 / 扁桃体中心核 / 炎症 / 広汎性痛覚過敏 / FosTRAPマウス / 化学遺伝学 / 光遺伝学 / CGRP |
研究実績の概要 |
Fos発現およびエストロゲン受容体活性化依存的にcre recombinaseを核内に発現するFosTRAP2マウスにおいて,cre依存的に発現する導入遺伝子を腕傍核および扁桃体中心核に導入したのちに炎症性疼痛モデルを作成した.同モデルにおいて口唇部の一過性炎症が下肢痛覚過敏を誘発する事実を確認した.このモデルでCre recombinase依存的に腕傍核にchannelrhodopsin2 (ChR2)を発現させ,脳スライスで腕傍核-扁桃体中心核間シナプス伝達を測定したところ,活性化腕傍核ニューロンからの入力が活性化扁桃体中心核ニューロンに大きなシナプス応答を高い確率でもたらす事実が明らかになった.また,炎症処置5週間後,扁桃体活性化ニューロンに化学遺伝学受容体hM3Dqを発現させ,deschloroclozapineによって活性化すると,痛覚過敏が再現され,このシステムが,脳による広汎性痛覚過敏に関与している事実が確認された.一方,炎症性疼痛には,痛覚の要素と炎症の要素が含まれるため,lipopolysaccharide投与が環境温依存的行動判断,および,シナプス伝達に及ぼす影響を検討した.Calcitonin gene-related peptide (CGRP)-cre発現マウスで,腕傍核にcre依存的ChR2発現ベクターを注入し, lipopolysaccharide投与後の腕傍核-扁桃体中心核間シナプス伝達を測定した.Mu opioid receptor agonistがシナプス伝達を著明に抑制する事実を見いだし,炎症群と非炎症群の間に抑制様式の差異が認められた.以上より,炎症が腕傍核-扁桃体中心核システムを活性化し,広汎性の痛覚過敏や行動変容をもたらす可能性が示された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調にほぼ計画通り研究が進んでいる.わくわくする結果とそこから導かれうる驚くべき仮説が浮かび上がりつつあり今後の研究の進展が大いに期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
炎症性疼痛で活性化される腕傍核ニューロンが炎症性疼痛で活性化される扁桃体中心核のニューロンと強いシナプス結合を示す事実が明らかになった.しかし,炎症性疼痛そのものがシナプス増強を生じさせ,その増強は長期にわたり持続する可能性があるので,この事実の背景となる機構の解釈は複雑である.加えて,このような特異的な強いシナプス結合は主に,扁桃体中心核腹側部で顕著であるとともに,活性化腕傍核ニューロンの投射も同腹側部に高密度であった.一方,扁桃体中心核内のFosTRAPされたニューロンは中心核全般に分布していた.今後,(1)この分布の差異の背景機構は何か? (2)この差異の成因において侵害受容性入力と炎症性メディエーターあるいは自然免疫関連因子はどのように関与しているか? そして,(3)いずれも腕傍核-扁桃体系を活性化する侵害受容シグナルと炎症シグナルは,同じニューロン群を標的とするのか,あるいは異なるニューロン集団が関与しているのか,に的を絞り実験と解析を進める.
|