侵害受容情報は腕傍核(PBN)に収斂し,その活性化は,扁桃体中心核(CeA)などの脳内危機対応ネットワーク群を活性化する.この活性化が,逃避行動閾値低下など,向生存的(pro-survival)な機能の発動に関与し,痛覚過敏などの症候を引き起こす事実を報告してきた.Calcitonin gene-related peptide (CGRP)-creマウスを用い,CGRP発現PBNニューロンにChR2を発現させ,脳スライスCeAニューロンから光誘発シナプス後電流を記録した.PBN内でcalca遺伝子とoprm(μオピオイド受容体遺伝子)の発現は大きく重複している.PBN-CeAシナプス伝達に及ぼす全身炎症の影響を検討するため,lipopolysaccharide (LPS) 投与の2および24時間後に下肢痛覚過敏を評価したところ,投与2時間後ではLPS群と生理食塩水投与群の間に下肢痛覚閾値の有意な差は認められなかったが24時間後にはLPS処置群のみ有意な閾値低下を示した.そこで,脳スライスを作成し,PBN-CeA間シナプス伝達のシナプス後電流振幅を測定し,μ受容体アゴニストの効果を評価した.μ受容体アゴニストDAMGOは,すべての記録ニューロンで振幅を有意に減少し,シナプス前μ受容体活性化がグルタミン酸放出を抑制する事実が見いだされた.一方,μオピオイド受容体遮断薬CTAPは,LPS投与2時間後に振幅の有意な増大を引き起こしたが,24時間後この効果は減弱した.以上の事実は,LPS投与2時間後に内因性オピオイド濃度が上昇しPBN-CeAシナプス伝達を抑制した可能性,そして24時間後にはこの影響が減弱して痛覚過敏が成立した可能性を示す.PBN-CeA系が,侵害受容のみならず炎症によっても活性化し,内因性オピオイドを介した両者間の機能的連関を制御する事実を明らかにした.
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