研究実績の概要 |
AD患者の脳には、発症の20年以上も前からAβが蓄積している。Aβは膜タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)が2種類のプロテアーゼで切断されることで産生される。APPにはmRNAのスプライシングバリアント由来のアイソフォーム、APP695、APP751、 APP770の3種類が存在する。神経細胞の(APP)695から産生されるアミロイドβペプチド(Aβ)は脳内実質に蓄積することで、アルツハイマー病(AD)の原因となる。申請者らは、血管内皮細胞にアミノ酸数の異なるAPP770が発現することを見出した(J. Biol. Chem. 285, 40097, 2010:申請者が筆頭著者)。そして、これまでAD研究に携わってきた経験(EMBO Mol. Med. 15, 175, 2015:申請者が責任著者)を生かして血管内皮型APP770発現マウスを作出し、脳内血管に Aβが蓄積することを確認した(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. under external review)。一方で、切断されたsAPP770は血小板に多量に含まれ、凝固阻害活性を持つことや血管内皮障害のマーカーとなり得ることを見出した(J. Biol. Chem. 287, 40817, 2012:申請者が責任著者;J. Biol. Chem. 295,13194, 2020:申請者が責任著者; 特許番号6093943)。本研究では、モデル動物や臨床検体を用いて血管内皮型APPのAD発症に果たす病的役割、血液凝固の阻害機構、血管内皮障害マーカーとしての有効性を明らかにすることを目的とした多面的研究を展開する。このように、APP770に着目することで、認知症、血液凝固や血栓形成の調節機構、心筋梗塞や脳梗塞を発症した患者をフォローアップ可能なバイオマーカー開発といった多方面における研究成果が期待できる、効率的かつ戦略的な研究を展開できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AD患者の脳には、発症の20年以上も前からAβが蓄積している。Aβは膜タンパク質であるAPPが2種類のプロテアーゼで切断されることで産生される。APPにはmRNAのスプライシングバリアント由来のアイソフォーム、APP695、APP751、 APP770の3種類が存在する。本申請者らは、世界に先駆けて血管内皮細胞がニューロン型APP695とは異なるAPP770を特異的に発現していることを報告した(S. Kitazume et al. J. Biol. Chem. 285, 40097, 2010 : 筆頭著者)。本申請者は、これまでアルツハイマー病研究に携わってきた経験(EMBO Mol. Med. 15, 175, 2015:申請者が責任著者)を生かして血管内皮型APP770発現マウスを作出した。本研究では、作出したモデル動物や臨床検体を用いて血管内皮型APPのAD発症に果たす病的役割、血液凝固の阻害機構、血管内皮障害マーカーとしての有効性を明らかにすることを目的とした多面的研究を展開する。 2021年度は、血管内皮型APP770発現マウス(EC-APP770+)単独では、高齢化させても脳内血管にアミロイドが沈着しないが、既存のADモデルマウス(AppNLF)マウスと交配させることで、高齢化すると脳内実質のみならず、脳内血管にもAβが蓄積することが明らかになり、論文投稿をしたところである。
|