研究課題/領域番号 |
21H02835
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
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研究分担者 |
猪原 匡史 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (00372590)
二宮 利治 九州大学, 医学研究院, 教授 (30571765)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | TREM2 / アミロイドβ / 認知症 / 糖尿病 / 肥満 / 早期予知バイオマーカー / 治療戦略 / 単級・ミクログリア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単球・ミクログリアに発現するTREM2・血中sTREM2に焦点を当て、複数コホートやTREM2 欠損マウスを基盤に、糖尿病・肥満から認知症進展における脂肪-脳連関の分子基盤を解明し、TREM2を標的とした認知症の新規評価系・治療戦略の開発を目指す。 NHO多施設共同肥満症・糖尿病研究(JOMS/JDOS2)(20施設・800例・5年追跡)では、縦断研究を行い、肥満症では認知機能指標(MMSE)低下と有意に関連する指標は動脈硬化指標・CAVI、糖尿病患者では血中sTREM2であり、肥満症と糖尿病では動脈硬化や炎症亢進が各々の認知症進展要因である事を示した。また、非肥満糖尿病患者のHbA1c増悪群においては、sTREM2の初期高値が2年後の認知機能低下と有意に関連しており、sTREM2が認知機能低下の新規予知指標となる可能性を認めた(Front. Endocrinol 2022)。 また、認知症・MCIコホート2000例を構築し、血中sTREM2と共同研究者が開発したアッセイ系による血中Aβ・tauの同時測定を施行した。糖尿病の有無や認知症の重症度間で、血中Aβ42/Aβ40比 sTREM2値に有意な差を認めた。糖尿病群においてはミクログリアの機能障害の関与が考えられ、糖尿病性認知症の病態解明に繋がると期待できる(Manuscript in preparation)。 さらに、認知症モデルマウス、肥満・糖尿病モデルでは、野生型に比し、脳のみならず脂肪組織においてもTREM2発現が亢進する事を見出し、TREM2は肥満・糖尿病に伴う脂肪組織リモデリングと認知機能低下に密接に関わると考えられた。以上、本研究により、TREM2を標的とした脳―脂肪連関、糖尿病性認知症の病態とその予知指標の開発の基盤を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は下記臨床・基礎研究を推進し、予定通りに次年度に続く研究基盤構築を行い、さらに臨床試験の成績を纏め、英文誌への発表も行った。 1.臨床研究:1)NHO多施設研究 糖尿病・肥満症コホート(JOMS/J-DOS2)を構築し(20施設・800例)、現在5年目の認知機能検査。追跡2年目までのデータ固定をおこなった。縦断データを用いて、論文報告を行った(Front. Endocrinol 2022)2)認知症・MCIコホート2000例の登録が完了し、先行して一部症例に対し、血中sTREM2と共血中Aβ・tauの同時測定を施行した。取得したデータを用いて、論文投稿中である(Manuscript in preparation)。 2.基礎研究:TREM2欠損マウス、認知症モデルマウス(脳アミロイド血管症マウス、SAMP8老化マウス)にて高脂肪食負荷による試験を推進し、計画通り成果を蓄積している。
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今後の研究の推進方策 |
I. 臨床研究(縦断研究):初年度に継続し、糖尿病・肥満症コホート(登録後5-7年)と認知症・MCIコホート(登録後3-5年)において、血液バイオマーカー(血中sTREM2・Aβ・tau)(初期値・変化量)と認知症診断成績(認知機能【MMSE, HDS-R】・脳画像検査)・脳容量との関連解析より、各血液マーカーの認知症早期診断指標としての有用性を検討する。認知症の病型別(AD, VaD等)、病態ステージ別(MCI~認知症)及び糖尿病の有無別に、特異的な予測マーカーを同定する。また糖尿病から認知症発症過程での各血液マーカー(血中sTREM2・Aβ・tau)を比較検討し、各マーカーの特徴、出現時期(sTREM2→Aβ→tauなど順番)を検討する。 II. 基礎研究:A. 動物実験: [1] TREM2欠損マウスと糖尿病マウスとの交配による検討 TREM2欠損マウスと糖尿病マウスを交配し、脂肪蓄積・脂肪細胞肥大化、炎症、インスリン抵抗性進展など脂肪組織リモデリング・異所性脂肪に対するTREM2の病態意義を解明する。さらに認知機能への影響を検討し、脳内Aβ・tau等の解析も含め、糖尿病性認知症に対するTREM2の病態意義も解明する。[2] TREM2欠損マウスと認知症モデルマウスとの交配による検討:認知症発症におけるTREM2の影響を明らかにする。また、脳内Aβ・tau等の解析から、認知症進展における脳内TREM2・Aβ・tau出現の時間的関係を明らかにする。 B. 細胞実験:脂肪細胞やミクログリアを用い、生活習慣病薬、内分泌ホルモン、申請者が認知症改善作用を認めたフラボノイド・タキシフォリンやエクオール等の機能性食品によるTREM2への影響とその分子機構を検討する。
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