研究課題
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、DMD遺伝子の変異により、筋細胞膜の裏打ちタンパク質のジストロフィンが欠損し、慢性の経過で筋萎縮が進行する難病である。申請者らは、アンチセンス核酸を用いたエクソン・スキップの基盤研究成果を踏まえ、国産初の核酸医薬品であるビルトラルセンの開発に成功した。一方、超高齢化社会を迎えたわが国では,加齢等に伴う筋萎縮はADL低下の主因である。筋ジストロフィーおよび高齢者の骨格筋では、共通してタイプII筋線維優位の萎縮を認めることから、ジストロフィー筋と加齢性筋萎縮に共通する分子病態が存在すると考えられた。この仮説を実証するため、申請者らは先行研究により、DMDモデルマウスのジストロフィー筋を対象に、超高感度定量質量分析を実施し、タンパク質間相互作用のインタラクトミクス成果を報告し、DMDおよび加齢に伴う筋萎縮に共通する代謝、炎症、筋肉成長経路間のクロストークを明らかにした。しかしながら、筋萎縮病態の包括的な理解には、多階層(マルチ)オミクス解析により筋萎縮の生命現象を詳細に投射し、分子グローバルネットワークの全貌を明らかにすることが必要である。本研究では、マルチオミクスを駆使し、DMDと加齢の筋萎縮に共通する生命現象の全体像解読を目的とする。本研究成果は筋萎縮の複雑な分子病態の解明に基づき、難病のDMDおよび社会的課題であるサルコペニアの克服につながる。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度はDMDモデルマウスを対象に、以下の内容で生体膜リピドミクス解析を実施した。①8週齢、80週齢のmdxマウスおよび野生型マウスを対象に前脛骨筋を採取し、LC-MS/MSリピドミクスによる包括的リン脂質解析により、ホスファチジルコリンなど各分子種の測定を行った。②8週齢、80週齢のMdxおよび野生型マウスを対象に前脛骨筋を採取し、GC-MS/MSリピドミクス(構成脂肪酸)により各種脂肪酸の分離測定、飽和・不飽和脂肪酸、直鎖・分枝脂肪酸解析を実施した。③リゾリン脂質アシル転移酵素のmRNA発現レベルをqPCRで解析した。
R5年度は、マウス研究成果のヒトヘの外挿を目的に、以下①~③に挙げたデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者由来尿細胞を用いたリピドミクス解析を実施する。①健常尿中細胞を対象にウシ胎児血清ロットの違いが細胞膜リン脂質リピドミクス解析に与える影響を評価する。②遺伝子疾患治療研究部で保持するヒトDMD MyoD変換尿細胞を対象に、モルフォリノ核酸を用いたエクソン・スキップ前後に細胞膜リン脂質リピドミクス解析を実施する。③リゾリン脂質アシル転移酵素であるLPCAT1, 2, 3, 4のmRNA発現レベルをqPCRで解析する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件)
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