研究課題/領域番号 |
21H02844
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
里 直行 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 副センター長 (70372612)
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研究分担者 |
長谷川 成人 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 分野長 (10251232)
村山 繁雄 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 特任教授(常勤) (50183653)
齊藤 祐子 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (60344066)
宮崎 早月 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60452439)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 認知症 / 肥満 / 遺伝子発現 / 老化 |
研究実績の概要 |
ADの危険因子として先天的なAPOE遺伝子や後天的な糖尿病や加齢が注目されているがその機序は十分に明らかとは言えない。APOE遺伝子は老人斑を増やすなど様々な研究がなされているが、βアミロイドやタウ以外の分子を標的とした次世代型認知症治療薬の開発が必要である。世界においてもADの生物学的な観点からの治療薬の開発が望まれている。そこで我々はADの危険因子として後天的な糖尿病や加齢に特に着目し、糖尿病および加齢による認知症促進メカニズムを明らかにし、それに基づく画期的な認知症の創薬を行う。本研究では糖尿病およびADの合併による寿命の短縮化におけるグリア系細胞の役割、神経原線維変化の進展に対する糖尿病および加齢の影響、βアミロイドに対する生体防御反応の糖尿病および加齢の影響を明らかにする。肥満・糖尿病とADの合併によりはじめて発現増加する遺伝子のうち、4遺伝子につき、遺伝子欠損マウスを作成し、解析を行っている。本年度はそのうち、B-cell translocation gene 2 (BTG2)遺伝子につき慢性脳虚血時におけるグリア細胞系の増殖抑制に関与することを報告した。また、βアミロイドやタウへの影響についても検討を行った。他のDUSP1,Cyr61, LSS遺伝子についても同様の解析をすべく進めている。また米国データベースを用いてAPOE遺伝子型と糖尿病の寿命に対する交互作用、すなわち、糖尿病による寿命短縮はAPOE2や3型では認められるもののAPOE4型では認められないことを報告した。現在、糖尿病に加え、肥満や高血圧についても同様の解析を行っている。また肥満・糖尿病合併ADマウスに関しては18か月齢のマウスの回収を終え、解析を行っている。興味深いことに肥満・糖尿病合併ADマウスではやはり老人斑は縮小することが判明した。現在、単一細胞解析を行い、そのメカニズムを探っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病による認知症促進の因子の解明については肥満糖尿病合併アルツハイマー病モデルの回収を進めた。単一細胞解析の為、脳組織小片からの核抽出のプロトコルについてR&Dを行い、解析に必要な収量と質を兼ね備えた核抽出の方法を再現性良く確立した。Btg2 KOマウスに総頸動脈狭窄を行い、本遺伝子がグリア系細胞の増殖抑制と認知機能保護に働くことを論文「Deletion of B-cell translocation gene 2 (BTG2) alters the responses of glial cells in white matter to chronic cerebral hypoperfusion. 」でJournal of Neuroinflammation誌に報告した。Btg2 KOマウスとAPP過剰発現マウスを交配し、6か月齢で回収、解析した。脳内のAβ40がBtg2 KOトマウスで増加する傾向はあったが、有意差はなかった。Cyr61,LSSコンディショナルKOマウス、Dusp1 KOマウスと家族性変異APPノックインマウスとの交配をすすめた。 加齢による認知症促進機構の解明については凝集タウを播種することによる神経原線維変化進展モデルを導入し、若年マウスと老齢マウスの比較を進めている。ROSA-APPマウスとCamkII-Creの交配をすすめ、若齢時と高齢時におけるAPP発現によって、脳内Aβ病理や、炎症などの病理への応答性の違いを検討しようとしている。危険因子間の相互作用の検討については米国臨床データベースを用いてAPOE多型と糖尿病の寿命に与える影響を明らかにし、論文「Interaction between APOE genotype and diabetes in Longevity」をJournal of Alzheimer's Disease誌に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病による認知症促進の因子の解明については肥満糖尿病合併アルツハイマー病モデルマウスの単一細胞解析を含めた解析、Cyr61,LSSコンディショナルノックアウトマウス、Dusp1ノックアウトマウスと家族性変異APPノックインマウスとの交配およびその解析、アルツハイマー病剖検脳における糖尿病の作用の検討を行う。 加齢による認知症促進機構の解明については加齢促進マウスにおけるβアミロイドやタウ病理の検討、およびROSA-APPマウスを用いた若年期と老齢期におけるβアミロイドに対する生体防御反応の変化の検討を行う。危険因子間の相互作用の検討についてはヒト剖検脳の入手、既存データの解析を行う。
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