研究課題
麻酔薬ケタミンは、治療抵抗性うつ病患者に対して、即効性の抗うつ効果と希死念慮の低下を示すことから、精神医学領域で最も注目されている薬剤である。ケタミンの主の薬理作用は、NMDA受容体拮抗作用であるが、他のNMDA受容体拮抗薬がうつ病患者においてケタミン様の強力な抗うつ効果を示さず、開発中止に至った。研究代表者は、ケタミンの光学異性体を用いた研究から、NMDA受容体への親和性が弱い(R)-ケタミンの方が、(S)-ケタミンより抗うつ効果が強いことを発見し、ケタミンの抗うつ作用におけるNMDA受容体以外の関与を世界で初めて指摘した。しかしながら、現在のところ、ケタミンの抗うつ作用における機序は不明である。本研究課題において、ケタミンの光学異性体を用いて、ケタミンの抗うつ効果に関する機序を調べた。ケタミンの光学異性体を投与した前頭皮質の単細胞RNA-seq解析で、Myelin-associated oligodendrocytic basic proteinによるミエリン修復が、アールケタミンの抗うつ効果に関係していることを明らかにした。さらに、肝障害のマウスモデル(hepatic ischemia reperfusion injury and common bile duct ligation)において、これらのモデルマウスのうつ様行動が、迷走神経を介する腸-脳相関が関係している可能性を示した。さらに、アールケタミンの単回投与は、これらのモデルマウスのうつ様行動を改善することが判った。本研究結果から、ミエリン関連がアールケタミンの抗うつ効果に関係していることを明らかにした。さらに、肝障害モデルマウスで観察されるうつ様行動に対しても、アールケタミンは抗うつ効果を示すことを明らかにした。
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