研究課題/領域番号 |
21H02891
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
綾部 時芳 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (90301019)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / Paneth細胞 / 自然免疫 / 腸内細菌叢 / 腸内環境 / αディフェンシン / クローン病 |
研究実績の概要 |
クローン病類似回腸炎を自然発症するSAMP1/YitFcマウスの小胞体ストレス制御分子、オートファジー関連分子、分泌顆粒関連分子およびapoptosis関連分子の経時的動態を解析し、小腸組織における腸炎発症前から病態進行に伴う分子群の変動を詳細に明らかにした。また、本研究者らの確立したsandwich ELISA、western blot法および質量分析等を組み合わせた方法を用いてαディフェンシンの量と質、すなわち酸化型と還元型αディフェンシンを測定し、腸内細菌叢組成との相関等を経時的に解析し、異常な還元型αディフェンシンによる腸内細菌叢の錯乱を示した。また、Paneth細胞をソート回収して、transcriptome解析を行い、さらに、それらの結果に基づいて単一Paneth細胞の関連遺伝子発現を解析し、αディフェンシンの量または質の修復をはかるための候補分子群を探索し、評価した。 単離小腸陰窩から小腸上皮細胞の三次元培養系であるマウス小腸オルガノイド(エンテロイド)を作製し、マイクロインジェクション法で内腔側から食成分および細菌の刺激を加えて、刺激前後における顆粒分泌応答を高速共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、刺激毎の分泌誘導時間に複数のパターンを認めた。また、高精細イメージングの併用によってPaneth細胞顆粒分泌様式を明らかにした。 以上より、炎症性腸疾患、特にクローン病の発症および進展に、Paneth細胞の機能異常を起点とする腸内細菌叢の錯乱を介した不適切な腸内環境が関与すること、本研究が推進する異常Paneth細胞の修復、αディフェンシンの質と量の正常化戦略から、炎症性腸疾患の予防までを見据えた新規治療展開につながることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究計画のほぼ全ての進展を認めた。本年度までに炎症性腸疾患の発症と増悪という病態について、小腸上皮細胞であるPaneth細胞の機能から詳細に解析することによって、腸内細菌叢を含めた腸内環境の恒常性破綻を示すとともに、破綻に至るメカニズムの一端を明らかにした。したがって、当初の計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究者らが開発した独創的なPaneth細胞研究手法、および引き続き行う遺伝子発現・タンパク質発現の網羅的解析や一細胞解析、腸内細菌叢解析等によって、Paneth細胞が恒常性を維持するメカニズム、さらにはそれを異常に導くメカニズムを理解する。そして、炎症性腸疾患モデルで取得する情報を基に、インフォームドコンセントを得て臨床検体を用いる解析を行うことによって、炎症性腸疾患患者の病態解明と新規治療戦略の確立に迫る。
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