研究課題/領域番号 |
21H02896
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
柿沼 晴 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30372444)
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研究分担者 |
朝比奈 靖浩 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座教授 (00422692)
岡本 隆一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50451935)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肝細胞 / iPS細胞 / オルガノイド / 肝細胞癌 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、独自に確立してきた学術・技術基盤に基づき、以下の目的を設定した。 (1)ヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイド<iPS-Hep Organoid>の新規培養法を確立する。(2)ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞を用いて、発癌病態の一部を再現しうる新たな肝疾患病態解析モデルを構築する。(3)上記を基盤に、ヒトiPS細胞由来星細胞様細胞等とiPS-Hep Organoidとの新規共培養系を確立し、肝組織を一部模倣しうるモデル培養体を作出する。(4)これに炎症刺激等を行って病態モデルとして解析することで治療標的分子を抽出し、同分子が臨床検体でも同様の挙動を示すことを証明することを目的とした。 今年度は前年度に続き、ヒトiPS-Hep Organoidの新規培養法を確立、改変すべく、検討を行った。さらなる培養条件の最適化を遂行したところ、6ヶ月以上の維持培養が可能で、胆管細胞系譜の形質を喪失し、肝細胞系譜からなるオルガノイド培養系の樹立に成功した(第58回日本肝臓学会総会で発表)。さらにゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞を用いて、発癌病態の一部を再現しうる肝疾患病態解析モデルを構築した。標的領域へHBVゲノムを挿入することによって新規のヒトiPS細胞株を樹立し、肝細胞系譜に誘導したところ、疾患モデル細胞では増殖能と細胞周期関連遺伝子群の発現が高く変化し、肝発癌病態の一部が再現された(第29回肝細胞研究会、第26回日本肝臓学会大会で発表)。研究成果は高く評価され第29回肝細胞研究会で優秀演題賞を2年連続で受賞した。 臨床データ解析に関しても新たな視点からの解析を進めて報告を行った(J Gastroenterol, 2023)。 これらの研究実績に関しては、論文投稿中であるとともに、以降の研究計画にも着手して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画で今年度に設定した課題は3つあるが、下記のように進行せしめた。 (1)ヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイド<iPS-Hep Organoid>の新規培養法確立:ヒトiPS-Hep Organoidの新規培養法を確立すべく、検討を行った。至適条件を決定ししつつ、さらなる条件の最適化を遂行したところ、現時点で6ヶ月以上の維持培養が可能で、胆管細胞系譜の形質を喪失し、肝細胞からなるオルガノイド培養系の樹立に成功した(第58回日本肝臓学会総会で発表)。さらにシングルセル解析を含めた網羅的解析の結果から、オルガノイドの構築に関わる分子機能を明らかにしつつある。本課題に関しては論文投稿中であ り、計画以上の進展があったと考えている。 (2)ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞を用いた肝疾患病態解析モデル構築:標的領域へHBVゲノムをknock inすることによって新規のヒトiPS細胞株を樹立、肝細胞系譜に誘導して比較検討したところ、疾患モデル細胞は肝発癌病態の一部を模倣しており、新たな肝発癌メカニズムの解明に成功した(第58回日本肝臓学会総会、第29回肝細胞研究会などで発表)。研究結果は高く評価され、第29回肝細胞研究会では2年連続で優秀演題賞を受賞した。論文は投稿し査読中であり、計画以上の進展があったと考えている。 (3)ヒトiPS細胞由来星細胞様細胞等とiPS-Hep Organoidとの新規共培養系確立についても計画を進め、すでに新規の3次元培養系の樹立に成功した。今後はその形質に関わる遺伝子群の網羅的解析に進む予定である。さらに、(4)これに炎症刺激等を行って病態モデルとして解析する、についても既に研究を開始しており、本研究計画は当初の予定以上の順調な進展をみせていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、下記の点に関して研究を推進してゆく。 (1)ヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイド<iPS-Hep Organoid>の新規培養法確立:ヒトiPS-Hep Organoidの新規培養法確立を継続して進め、培養系の評価と分子機能を明らかにする。(2)ゲノム編集により標的遺伝子を改変したヒトiPS細胞を用いた肝疾患病態解析モデル構築:標的領域へHBVゲノムをknock inすることによって新規のヒトiPS細胞株を樹立、肝前駆細胞の増殖能亢進を制御する分子機構の詳細を明らかにする。CHIP-PCRにより標的分子のヒストンメチル化を評価し、原因となるtranscriptの発現を評価する。これらの結果に関して、 臨床検体を用いた検証解析で、その妥当性を評価する予定である。(3)ヒトiPS細胞由来星細胞様細胞等とiPS-Hep Organoidとの新規共培養系確立:我々が独自に樹立したiPS-Hep OrganoidとiPS由来星細胞の2者による共培養オルガノイド作成に成功している。今後はiPS-Hep OrganoidとiPS由来星細胞を、共培養している細胞と共培養していない細胞とで網羅的に遺伝子発現を比較検討し、細胞間相互作用に重要な分子を抽出する。 加えて、次年度は下記の課題に関しても並行して進行させる予定である。 (4)新規共培養系に炎症刺激等を行って病態モデルとして解析する:その反応に伴って惹起される、肝前駆細胞と間葉系細胞でのそれぞれの遺伝子変動を網羅的に解析し、前記の解析で得られた結果と統合的かつ網羅的に解析して候補分子を抽出する。
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