研究課題
本研究では、腫瘍微小環境を構成し、抗腫瘍免疫に関与する未知の細胞や背景肝因子を同定するとともに、抗原特異的T細胞との細胞間相互作用を明らかにすることによって、肝がんに対する新規免疫療法開発の基盤研究を行うことを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、肝がんに特異的な腫瘍関連抗原であるAFPおよびhTERT由来エピトープを特異的に認識するT細胞レセプター(TCR)の遺伝子を用いて、細胞間相互作用解析に使用するための、抗原特異的TCR遺伝子改変T細胞の作製を実施した。作製されたTCR遺伝子改変T細胞は、抗原特異的に肝がん培養細胞や他のがん腫であってもAFPやhTERTを発現する培養細胞に対して細胞傷害活性を発揮した。一方、これらの抗原を発現していない細胞ならびに抗原は発現していてもHLA-A24分子を有していない細胞には細胞傷害活性を示さず、確立したアッセイ系が抗原特異的かつHLA特異的に細胞傷害活性を評価できることを確認した。さらに、こうしたTCR遺伝子改変T細胞のゲノム編集を実施し、機能強化したT細胞を作製するための準備段階として、マウスT細胞を使用して、T細胞の長期生存や疲労抵抗性に係る遺伝子の発現を調節する技術の開発を行った。これらの技術は治療への応用が可能であるとともに、今後細胞間相互作用を明らかにするための研究ツールとして使用が可能である。上記研究と並行して、C型肝炎ウイルス排除後に生体に生じる肝がんに対するT細胞の免疫応答の変化を解析し、各種T細胞やMDSCならびにTregといった免疫抑制細胞との細胞間相互作用の一端を明らかにし、論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の解析に使用するツールの1つであるT細胞レセプター(TCR)遺伝子改変T細胞に関して、肝がんに特異的な抗原に反応するTCR遺伝子改変T細胞の作製、さらにゲノム編集による機能改変のための準備が順調に進行している。臨床検体を用いた単細胞発現遺伝子解析に関して、当初の予想よりも費用が高額となり、研究手法の修正が必要であると考えており、今年度は多数の保存検体を用いた単細胞発現遺伝子解析に代わる手法として、蛍光色素を用いた多重染色によって、各種免疫細胞の位置情報および機能を推測する手法ならびにCODEX技術を用いた組織の解析手法を確立した。一方で、肝癌マウスモデルとして予定していたSTAMマウスの供給が困難となり、当初の予定とは異なるマウスモデルへと変更となったことで、マウスモデルを用いた検証がやや遅れている。
ゲノム編集技術により機能を改変したTCR遺伝子改変T細胞の作製を重点的に推進し、新規の肝がん免疫療法の開発へ繋げるための基盤情報を取得する。予定を変更したマウス肝がんモデルの作製をすすめ、同モデルを用いたT細胞を中心とする細胞間相互作用の検証を実施する。今年度確立したCODEX技術により肝がん組織のシングルセル解析技術を用いて、臨床サンプルの解析を進めることによって、抗原特異的なT細胞と腫瘍微小環境における各免疫細胞との細胞間相互作用を明らかにし、肝がん免疫療法の確立に向けた有意義な分子、細胞を同定する研究をさらに推進する。
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Int J Mol Sci.
巻: 23 ページ: -
10.3390/ijms231911623.