研究実績の概要 |
肝がんの完全治癒を導く宿主免疫応答を成立させるためには単純に抗原特異的T細胞を誘導するだけではなく、免疫抑制細胞を含む様々な細胞とT細胞の相互作用機序およびこれに影響を与える背景肝因子を明らかにし、抗原特異的T細胞の質と機能をコントロールする必要がある。そこで本研究では、腫瘍微小環境を構成し、抗腫瘍免疫に関与する未知の細胞や背景肝因子を同定するとともに、抗原特異的T細胞との細胞間相互作用を明らかにすることによって、肝がんに対する新規免疫療法開発の基盤研究を行うことを試みた。 本研究では以下の3つの成果が得られた。1)AFP、hTERT、MRP3特異的TCRを有するTCR遺伝子改変T細胞を作製し、その抗原ならびにHLA特異的な細胞傷害活性を確認した。本技術を用いることによって、T細胞の免疫記憶や疲労抵抗性に係る遺伝子の発現を調節する技術の開発を行った(特願2022-157443)。2)臨床検体を用いたT細胞の研究では、長期生存が得られた肝癌患者の末梢血リンパ球を用いて、単細胞発現遺伝子解析を実施し、同時に各T細胞がもつTCRの遺伝子配列を同定することによって、肝癌に特異的なTCRを有するT細胞に特徴的な発現遺伝子パターンを同定した。これらの特徴的な発現遺伝子の中には、T細胞の免疫記憶や疲労抵抗性に関与する分子が含まれていることを明らかにした(Nature Communications 13:3123, 2022.)。3)T細胞と他の免疫細胞の相互間作用に関する研究において、C型肝炎ウイルス排除後に生体に生じる肝がんに対するT細胞の免疫応答の変化を明らかにした(International Journal of Molecular Sciences 23:11623, 2022.)。
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