研究課題/領域番号 |
21H02904
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
藤原 英晃 岡山大学, 大学病院, 助教 (90743683)
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研究分担者 |
藤井 伸治 岡山大学, 大学病院, 講師 (60362977)
前田 嘉信 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (60403474)
西森 久和 岡山大学, 大学病院, 助教 (70756064)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 移植片対宿主病 / ミトコンドリア / 腸内細菌叢 / 酸素代謝 |
研究実績の概要 |
高齢者社会に伴い血液悪性疾患の患者は増加していますが、根治療法である同種造血幹細胞移植は、治療に伴う重篤な合併症のため、高齢患者への適応はごく一部に限定されています。特に、移植片対宿主病は致死的な合併症であり移植における最大の障壁です。腸内細菌叢の乱れはGVHDの発症に深くに関わっており、腸管上皮細胞のミトコンドリア異常による腸管内酸素濃度の変化が原因ではないかと推測されます。本研究は、従来のGVHD研究がドナーT細胞の活性化からサイトカインや細胞障害性T細胞による組織障害という視点と全く異なり、GVHD標的細胞のミトコンドリア機能不全、特にTCA回路と電子伝達系をつなぐ免疫チェックポイントとも考えられるミトコンドリア複合体II(MCII)が組織恒常性を破綻させるという点からとらえたGVHD病態です。また、本視点による研究はなぜGVHDにおいて腸管という臓器が免疫による攻撃を受けやすいのかという、疾患の臓器特異性を明らかにする起点になるとも考えられ、未だ未解明であった腸管GVHDの原因と考えられる、同種移植後に発生する腸上皮細胞のミトコンドリア特異的障害が発症する影響及び機序を細菌学、代謝エネルギー学と免疫学を統合した「免疫反応への組織脆弱性」の観点から解明し、従来の免疫抑制療法と異なる組織寛容性をもたらす治療方法を確立することを目的としています。本年度の予定として、GVHD状態における以下の内容を検討する予定にしています。 I)GVHD腸上皮細胞のエネルギー・代謝変化の検討 II)ミトコンドリア複合体IIの形態学的量的検討 III)薬理学的ミトコンドリア複合体II阻害の検討
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検討予定としていた内容(I)GVHD腸上皮細胞のエネルギー・代謝変化の検討をほぼ予定通りに施行し、II)ミトコンドリア複合体IIの形態学的量的検討、III)薬理学的ミトコンドリア複合体II阻害の検討)に関しては基礎動物実験における十分な検討を行い、令和4年度に予定している実験に取り掛かるデータが十分得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には以下の実験を行い、さらに内容を発展させる予定としている。 I)ミトコンドリア複合体IIの形態学的量的検討:GVHDによる腸上皮細胞のMCII障害がミトコンドリアの形態・機能に与える影響を明らかにするために、GVHDが発生する腸管のみならず皮膚・肝臓、非GVHD標的組織である腎臓及び心筋細胞を対照に用いて、MCII障害の有無を免疫蛍光染色及びNBTを用いた酵素活性染色法で解析し、特異的障害組織を同定する。MCII欠損を電子顕微鏡及び金コロイド抗体を用いた形態学的検討を行いMCII障害がミトコンドリア形態に及ぼす影響を検討する。この実験結果から、MCII障害が腸上皮細胞特異的であることを確認する。 II)薬理学的ミトコンドリア複合体II阻害の検討:腸上皮細胞MCIIの障害がGVHDの発症及び増悪に重要であることを生体内で明らかにするために、薬理的にMCII 抑制作用をもつ薬物を用いてGVHD実験及び腸上皮細胞のミトコンドリア機能評価実験を行う。これらの結果より、MCIIは腸管上皮細胞においてT細胞による傷害から細胞を保護し組織の恒常性維持を有していることがわかる。 III)遺伝学的ミトコンドリア複合体II阻害の検討:薬理学的なMCII阻害は未知のoff-target作用を呈する可能性がある。このため腸上皮細胞特的にMCIIが欠損したマウスを用いてその妥当性を検討する必要があり、腸管上皮細胞特異的にMCIIを欠損するマウス(現在開発中)を用いてMCII障害がGVHDに与える影響を解析する。このため今年度はMCIIを欠損するマウスの作成に取り掛かる。ただし、本コンディショナルノックアウトマウスの作成には時間がかかること、胎性致死となる可能性も否定できないため注意を要する。
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