研究課題
本研究の目的は、”肝疾患合併症における腸-肝-脳自律神経反射の役割の解明”と”肝臓内の神経維持・活性化機構の解明”の2つである。これまで、肝疾患合併症(肝肺症候群や肝腎症候群など)の発症・進展は、腸肝循環を介して代謝されるべき腸内細菌関連因子(液性因子)が肝臓内に蓄積し、それらが血中に漏出することで惹起されると考えられてきた。臓器間のコミュニケーション手段として、液性因子系だけでなく神経系も極めて重要である。そこで、我々は、肝臓を支配する神経と他臓器を支配する神経がどのようにコミュニケーションをとっているのかを世界に先駆けて解析を進めていき、そのネットワーク関連因子を同定していく。同定したネットワーク因子が肝機能、消化管、さらにその他臓器に及ぼす影響を動物モデルで詳細に解析する。加えて、これまで解明されてこなかった肝臓内神経の維持・活性化に関する分子機序を、我々が独自に開発した肝臓内神経のトレーシング技術と神経細胞のシングルセル解析を組み合わせて解明していく。本年度は、肝臓を支配する求心性迷走神経の標識法を取り組んだ。迷走神経肝臓枝にカフ電極を取り付け、強制的に迷走神経肝臓枝を電気刺激した。活性化した求心性迷走神経は、FosTRAP法により標識した。肝臓内に逆行性トレーサーを投与し、標識細胞におけるトレーサーの有無を蛍光顕微鏡にて確認した。電気刺激により迷走神経肝臓枝のほとんどが活性化を受けることを確認した。一方で、電気刺激により活性化した求心性迷走神経を脱落させると腸管内制御性T細胞の有意な減少を認めた。肝臓支配神経を物理的もしくは薬理的に遮断した動物を用いて、肝-脳自律神経反射の破綻と肝硬変病変が肺機能および肺病態に及ぼす影響を確認した。
2: おおむね順調に進展している
肝臓の神経に関する解剖学的や遺伝学的知見が乏しい。そのため、他臓器を支配する神経とは異なり、肝臓を支配する神経の生理的機能に関しては、相反する報告が散見される。肝臓を支配する求心性神経がどのような物質により刺激を受けるのか、また、脳のどの箇所に情報を伝えているのかは具体的にはなっていない。当該年度においては、それらの疑問に答えるべく、迷走神経電気刺激による求心性迷走神経肝臓枝の標識・同定法の確立に取り組んだ。FosTRAP2xAi14の二重変異動物は、活性化した神経を任意のタイミングで標識することが可能である。さらに、肝臓内に逆行性神経トレーサーを打ち込むことで、活性化神経の所属先が肝臓でることを確認した。迷走神経肝臓枝電気刺激による活性化した神経の大半が肝臓支配の神経であった。さらに、活性化した迷走神経肝臓枝の細胞体をジフテリア毒素を用いて脱落させると、外科的な遮断と同様に、腸管内の制御性T細胞が減少した。これらの結果より、迷走神経肝臓枝の電気刺激法とFosTRAP法を組み合わせることで求心性迷走神経肝臓枝への形質導入することが可能となった。次年度以降、この新たな技術を用いて迷走神経肝臓枝の解剖学的・遺伝学的特徴を解析することにしている。
肝臓支配する求心性神経を蛍光標識し、節状神経節より神経細胞を回収して、シングルセル遺伝子発現を解析する。肝臓内を走行する神経周辺には、免疫細胞や線維化担当細胞である肝星細胞(Hepatic stellate cell, HSC)が存在している。特に、HSCはGlial fibrillary acidic protein (GFAP), p75NTR、Nestinなどグリア細胞を特徴付ける遺伝子と神経細胞に維持に重要である神経細胞成長因子を高発現している。肝臓線維化病態の進展に伴い、HSCは、上記グリア細胞関連遺伝子の発現を低下させ、α-Smooth muscle actinやコラーゲンを高発現する線維芽細胞へと形質転換する。我々は予備検討で正常もしくは肝臓線維化モデルマウス肝臓より採取したHSCと初代培養ニューロン(節状神経節)を共培養し、HSCの神経細胞維持能を評価した。肝臓線維化HSCでは正常肝と比較して、ニューロンの維持能が低下していた。そこで、肝星細胞の神経維持因子を同定するため、正常肝と肝硬変病態の肝星細胞の遺伝子発現プロファイルをRNAseq法で解析する。肝臓内神経維持における候補因子の役割を明確にするため、肝星細胞特異的遺伝子導入マウス(Lrat-CreもしくはGFAP-Cre)を用いた解析を実施する。その他の免疫細胞においても、同様の手法を用いて、肝臓内を走行する神経と免疫細胞の神経関連遺伝子発現を比較して、肝臓内神経維持因子の探索を実施する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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