研究課題/領域番号 |
21H02918
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
北村 和雄 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 特別教授 (50204912)
|
研究分担者 |
永田 さやか 南九州大学, 健康栄養学部, 准教授 (00452920)
加藤 丈司 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 教授 (20274780)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アドレノメデュリン(AM) / トロンビン / トロンビン抵抗性AM(TR-AM) / 肺血症性ショック / 肺高血圧症 |
研究実績の概要 |
研究代表者はヒト褐色細胞腫組織より、強力な降圧作用を有する新規生理活性ペプチドのアドレノメデュリン(AM)を発見した。AMは治療薬として有望であり、炎症性腸疾患やCOVID-19および脳梗塞急性期でのAM投与の医師主導治験を推進してきた。しかし、AMはペプチドであるため分解を受けやすく、皮下投与したときの生物学的利用能も悪く、入院しての持続静脈投与が必要であり利便性が悪い。AMの生物活性が減弱せずに安定性が向上するAM類縁体の研究を行った。AMは血中ではトロンビンで速やかに分解されることを明らかにした。 [Ala44]AM(13-52)がトロンビンで分解を受けず、AMと同等の生物活性があることが判明し、トロンビン抵抗性AM(TR-AM)と命名した。TR-AMを治療薬として臨床応用するための次の4つのサブテーマで研究を推進してきた。 1)TR-AMの各種細胞への作用と作用機序の検討: AM受容体を発現している細胞株(血管内皮細胞、を用いて、TR-AMとAMの活性を評価した。AMとTR-AMはAM受容体に対する親和性は同等であることがあきらかになった。 2)TR-AMの血行動態に対する効果:TR-AMを高血圧自然発症ラット(SHR)に単回皮下投与して血行動態や血中TR-AMを観察した。TR-AMは血中濃度の上昇とともに強力な降圧作用があることが判明した。降圧に伴い、心拍数の増加が認められた。 3)TR-AMの薬物動態の検討:カニクイザルにTR-AMを皮下投与後に経時的に採血を行い、TR-AM血中濃度を調べ、ラットでの投与とほぼ同等となることが明らかになった。 4)循環器疾患モデル動物でのTR-AMの有用性:TR-AMはトロンビンで分解されないため、トロンビンの活性化が病態に重要な役割を果たしている敗血症モデルに対してTR-AMの有用性を検討した。TR-AMを皮下投与することで、心臓、肺、腎などの臓器障害が軽減傾向にあった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はTR-AMの治療薬としての実用化を目指す基礎研究を推進しており、次の4つのサブテーマで研究を推進してきたが、以下の通り予定していた研究はほぼ実施でき、新たな知見も得られたため、おおむね順調に進展しているとした。 1)TR-AMの各種細胞への作用と作用機序の検討:1型AM受容体(CLR/RAMP2 複合体)と2型AM受容体(CLR/RAMP3 複合体)およびCGRP受容体(CLR/RAMP2 複合体)を安定発現している細胞株を用いて、TR-AMとAMのcAMP増加活性を評価した。AMとTR-AMの3つの受容体に対する親和性は同等であることがあきらかになった。 2)TR-AMの血行動態に対する効果:TR-AMを高血圧自然発症ラット(SHR)に単回皮下投与して血行動態や血中TR-AMを観察した。TR-AMは血中濃度の上昇とともに強力な降圧作用があることが判明した。 3)TR-AMの薬物動態の検討:TR-AMは皮下投与した時に生物学的利用能がAMと比較して顕著に増加している。ラットやカニクイザルでのPKを明らかにできた。 4)循環器疾患モデル動物でのTR-AMの有用性: TR-AMはトロンビンで分解されないため、トロンビンの活性化が病態に重要な役割を果たしている敗血症性ショックの疾患モデルに対してTR-AMの有用性を検討した。敗血症性ショックモデルは当教室で実施しているマウスLPS投与モデルを用いて検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
TR-AMの循環器疾患治療薬としての実用化を目指す基盤的研究を推進する。引き続き次の4つのサブテーマで研究を推進する。 1)TR-AMの各種細胞への作用と作用機序の検討:1型AM受容体と2型AM受容体およびCGRP受容体を安定発現している細胞株を用いて、TR-AM とAMが同等であることが明らかになったが、今後は血管内皮細胞等の各種培養細胞を用いて検討する。 2)TR-AMの血行動態に対する効果:TR-AMを高血圧自然発症ラット(SHR)に単回皮下投与して強力な降圧効果があることが判明したが、今後はTR-AMを連日投与して血圧の上昇を抑制できることを明らかにしたい。また、AMやAM誘導体(PEG-AM)との薬効の比較も検討する。 3)TR-AMの薬物動態の検討: AMとTR-AMの皮下投与後の分布、代謝や分泌についてラットを用いて検討する。血中濃度のPKに関してはすでに明らかにしているので、経時的に組織を採取して組織中のTR-AMを測定することで、組織の分布と血中濃度との関連を明らかにする。 4)循環器疾患モデル動物でのTR-AMの有用性:TR-AMはトロンビンの活性化が病態に重要な役割を果たしている敗血症モデルマウスにおいて、TR-AM皮下投与による有用性が示唆された。今後は心不全モデルでの検討を行うとともに、医薬品開発を視野に入れて予備的毒性試験やCMCの検討も行う。
|