研究課題/領域番号 |
21H02924
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (70467281)
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研究分担者 |
芳川 豊史 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00452334)
長谷 哲成 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30621635)
湯川 博 名古屋大学, 未来社会創造機構, 招へい教員 (30634646)
田中 一大 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (40809810)
松井 佑介 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (90761495)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺癌 / ドライバーがん遺伝子 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
本課題は変異KRAS癌の創薬を目的とする。代表者は自身開発の正常気管支上皮細胞モデルHBECにおいて、変異KRASの導入が細胞の悪性度を増強する一方で、細胞の増殖を停止させる癌遺伝子誘導細胞老化(oncogene-induced senescence; OIS)という現象に着目した。本年度は、本課題の目的達成の第一歩として、HBECモデルにおいて、変異KRASにより誘導されるOISの増殖抑制効果の詳細を検討した。我々はhTERT/Cdk4導入により不死化した正常気管支上皮細胞HBEC3に遺伝子操作を加えることによってtet-onシステムにより変異KRASG12V発現の精密な制御が可能となったHBEC3-RIN2を作成した。同細胞を用いて、変異KRASが正常気管支上皮細胞に与える影響を評価した。変異KRASは、HBEC3-RIN2において部分的な上皮系から間葉系への移行を引き起こし、これはZEB1およびSNAILの発現が関連した。変異KRASは、リン酸化されたAKTとERKの発現を増加させることで部分的に細胞の生存率を高めたが、細胞数、細胞周期の状態には影響を与えなかった。また、がん抑制遺伝子p53タンパクの発現を低下させたが、予想に反し、その標的遺伝子であるp21のタンパク発現は上昇した。これは変異KRASの存在下においてはp21が、がん促進的な作用を持つ可能性を示唆した。また、変異KRAS発現によりHBEC3-RIN2細胞の数%のみが老化した。これらの結果はhTERT/Cdk4により不死化したHBEC3-RIN2細胞は、変異KRASによる老化誘導に対し高い抵抗性を持つことを示した。以上の結果を論文発表した(Exp Cell Res . 2022 May 1;414(1):113053. doi: 10.1016/j.yexcr)。上記のOIS抵抗性の原因として、①変異KRASが正常気管支上皮細胞に老化を誘導しにくい、もしくは、②hTERTまたはCdk4のいずれか、あるいは両者が変異KRASによる老化を抑制している可能性を考える。本年度はこれらを検証し、OIS治療開発につなげていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題開発当初はHBECモデルを用いたOIS回避機能に基づくプールshRNAライブラリースクリーニングを実施し、遺伝子Xを有望な治療標的候補として特定し、同遺伝子を標的とする化合物スクリーニングを実施した。しかし、薬効を評価する実験系の確立が困難であったため中止とした。一方で、これらの実験を実施する中で、hTERT/Cdk4により不死化した不死化正常気管支上皮細胞HBEC3-RIN2が予想以上に癌遺伝子誘導細胞老化(oncogene-induced senescence; OIS)に対する抵抗性を持つことが示唆された。そこで、2021年度は、まず、HBECモデルにおける変異KRASによるOISの詳細について検討を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の成果として、hTERT/Cdk4により不死化したHBEC3-RIN2細胞は、変異KRASによる老化誘導に対し高い抵抗性を持つことを見出した。その原因として、①変異KRASが正常気管支上皮細胞に老化を誘導しにくい、もしくは、②hTERTまたはCdk4のいずれか、あるいは両者が変異KRASによる老化を抑制している可能性を考える、本年度はこれらの可能性を検証し原因を明らかとする。さらに、HBEC3モデルを使用して変異KRAS以外の癌遺伝子によるOISの分子機序も明らかとする。本年度はそれらの知見等に基づき、変異KRAS肺癌においてOISを誘導する標的分子を同定し治療開発を進める。
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