高齢者は、ウイルスや細菌などの病原体感染に伴う重症化リスクが高い。その要因として加齢に伴う免疫低下や異常が挙げられるが、その発症メカニズムには不明な点が多い。これまでに我々は、若齢マウスにおいてgrowth arrest-specific protein 6 (Gas6) がその受容体であるAxlを介して重症感染症の発症と関連することを明らかにした。さらに我々は、若齢者と比較して高齢者の血中Gas6濃度が高いことを見出した。これらより、高齢者におけるGas6濃度の上昇が加齢に伴う疾患の発症や重症化の原因になることを予想した。本研究では、加齢に伴うGas6レベルの上昇とインフルエンザウイルス感染症の重症化の関連性を解明することを目的とした。 これまでに、加齢に伴いヒト同様にマウスでもGas6レベルが上昇し、ウイルス感染に対して不可欠な初期免疫応答を抑制するため、結果的に感染後期での重度の炎症応答を誘導することを示した。これに加えて、Gas6は老齢マウスの気道上皮細胞に高発現していることを明らかにしている。そこで本年度は、in vitroの実験系を用い、Gas6産生機構を解明することを目的とした。特に、老化した個体で増加する老化細胞に着目した。結果、老齢マウスにおいて、多量のGas6が誘導される気道上皮細胞に細胞老化 (細胞老化マーカーの一つであるp16の発現上昇) が観察された。そこで、in vitro の実験において、肺上皮細胞をdoxorubicinにより処理すると、細胞老化と共にGas6が誘導された。また、異なる細胞老化マーカーであるp53の阻害剤で老化細胞を処理するとGas6発現が低下した。以上の結果より、加齢に伴う細胞老化がGas6を誘導し、Gas6がAxlを介してウイルス感染に伴う免疫応答を抑制し、結果的に重症化をもたらすことが示唆された。この研究成果は、感染症重症化の予防・治療法の開発の重要な基盤となるだろう。
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