本研究は“薬物療法後の微小環境”に着目し、がん細胞の再増殖・再進展を規定する分子機構の解明を目的としている。研究期間内に以下を検討した。1)術前加療された非小細胞肺癌検体を用いて、薬物療法後に生存している腫瘍細胞率と薬物療法後の腫瘍微小環境中に存在する線維芽細胞(CAFs)、マクロファージ(TAMs)およびリンパ球(TILs)の相関を検討した。2)がん細胞株とCAFsを含んだハイブリッドオルガノイドを新たに作製した。3)がん細胞、CAFsのシスプラチン耐性株を作製した。低濃度暴露から始め、最終的には5uMのシスプラチン下にて生存するがん細胞株(A549肺腺癌細胞株)およびCAFs細胞株(肺腺癌組織より培養)の樹立に成功した。4)A549、CAFs、それぞれでシスプラチン耐性株・シスプラチン非耐性株のRNAseqにより、発現する遺伝子の比較を行った。A549に関しては、耐性株でTNF応答遺伝子、炎症応答遺伝子の発現が増加していた。CAFsに関しては、耐性株で形態形成や細胞増殖の負の制御に関与する遺伝子の発現の増加していた。さらに、single cell RNAseqを実施し、各細胞株のクラスター分類、クラスターにenrichされている遺伝子群の同定を行った。詳細は現在解析中である。5) A549とCAFsをシスプラチン耐性株同士、シスプラチン非耐性株同士で共培養し、独自に開発したcollagen invasion assayにより、薬剤非耐性微小環境・薬剤耐性微小環境での浸潤能の比較を行った。結果、CAFsに関しては、耐性株の方が非耐性株よりwound内への浸潤速度が遅かった。また、wound内に浸潤した薬剤耐性がん細胞数は、非耐性のがん細胞数より有意に少数であった。
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